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実の家族を受け入れられない人は、実際どのように適度な距離を保っているのだろうか。血のつながりがあるからこその責任や罪悪感、諦念もあるはずだ。当事者に話を聞いてみると──。マリ子さん(仮名)の実家は、ゴミ屋敷化しておりーー(構成=田中有)

悪口や批判しか言わない父

群馬県の実家を訪れるたびに、会社員のマリ子さん(52歳)はぐっと胸を締めつけられる気がする。庭にまで段ボール箱や黄ばんだ雑誌類、古びた工具など何だかわからないものが幾層にも重なる「ゴミ屋敷」だからだ。父親(85歳)の20年におよぶやもめ暮らしの結果である。

元教師の父は、マリ子さんにとって厳しいばかりの存在だった。

「父は仕事人間で、顔を合わせると『勉強しろ』。いい成績を取っても『1番を目指せ』。褒められたことはありません。家族でテレビを見ていても、悪口や批判しか言わない。小学生の頃、自分で髪の毛を編んでいたら『そんなことにばっかり熱心なんだな』と冷ややかに言われたのを覚えています。次第に私は父が家にいると自室にこもり、本や音楽の世界に没頭するようになりました」

大学入学と同時に家を出て、胸いっぱいに呼吸ができるような喜びを味わった。就職した会社で30年以上働き続け、結婚して家も買った。両親が暮らす実家を老後に向けてリフォームしよう、と話していた矢先、母親が60歳で急逝してしまう。