イメージ(写真提供:写真AC)
子どもを望んで不妊治療を選択する人もいる。しかし、その全員が授かるわけではないのが現実だ。母になることを願いながら、不妊治療をやめた3人の女性は、どう決断し、どのように「その後」を生きているのか──。ジャーナリスト・河合蘭さんが取材します。3人目は、9年間も不妊治療を続けた千春さんです。

妊娠のために仕事を辞めて〈千春さん(50歳)の場合〉

教師をしていた千春さんは、37歳から46歳まで、9年の長きにわたって不妊治療を受けた。30代ではタイミング法や、精子をカテーテルで子宮に送り込む「人工授精」を繰り返していたが、なかなか妊娠しないため、退職を決意。治療をしていると告げて周囲からどう見られるのか、偏見をおそれて職場にカミングアウトできないのがつらかったという。

そのうえ当時、「モンスターペアレント」と呼ばれる親たちがにわかに増え始め、ストレスに耐えられなくなったのだ。

「自分が妊娠しにくいのは、もしかしたら仕事のストレスのせいなのではないかという気がして。退職すれば、すぐに妊娠できると思っていたのだけれど……」

しかし現実には、妊娠判定は陰性が続く。40歳で「もう残り時間は長くない」と感じて、体外受精に踏み切ったあとも、それは同じだった。

「46歳で挑戦した最後の体外受精は、妊娠しないことをもう一度確かめてあきらめるためのものでした」

日本産科婦人科学会のデータ(2015年)では、46歳の女性が体外受精で出産できる確率は、一回あたりわずか0.7%となっている。

治療をやめた千春さんは「病院に行かなくてもいいからラク」「子どもがいたらお金もかかるし、趣味の音楽やスポーツも楽しめない」と、子どもがいないメリットを、必死になって自分に言い聞かせた。それは決して簡単なことではなかったが、閉経を迎えたころ、ようやく「子どもが欲しい」という気持ちが薄れてきたという。