歌を辞めようとしたことも

改めて歌手人生を振り返ってみると、いろいろなことがありました。23歳で結婚を機に歌を辞めようと、引退したことも。同じ時期に、健康そのものだった兄が突然心不全で亡くなり、私の人生はぐるぐる音を立てて私の知らないどこかに向かって走っているようでした。

その後、周囲の方からの強い勧めで、1週間だけ日生劇場で歌うことになりました。最終日の幕が下りた瞬間、「私はもうどんなことがあっても歌を辞めるなどと言わない」と固く心に誓ったことを覚えています。

日本全国で年に70〜80回くらいコンサートを行ってきましたが、新型コロナウイルスの影響で2020年は2月以降の活動が中止になってしまい、再開できたのは9月のことでした。嬉しくて、嬉しくて。

ところが嬉しさが沸点に達して不覚にも1曲目から涙が溢れ、思うように歌えず反省しきり。その顛末を自粛中に始めたインスタグラムに綴ったら、「良子さん、それがライブなんですよ」とコメントしてくださる方がいて、ものすごく救われました。

歌うことが当たり前の人生を歩んできましたが、今はっきりと「お客様の力が私を歌わせてくれている」「歌によって生かされている」と実感します。自粛中に家族と過ごす時間も嬉しいことですし、私にとっては、長いステイホーム期間も悪いことばかりではなかったと思いたいのです。