清水 素晴らしいお話です。ただ、そこにいたるまでにはお二人ともいろいろな葛藤の段階があったのかもしれません。どのような事情で70代の方が足を失われたのか、なぜ運転手さんが片腕を失われたのかはわかりませんが、その直後はとても不自由だっただろうし、何より悲しかったはずです。誰かを恨んだり、卑屈になった時期もあったかもしれません。でも、そういう気持ちを経て、今にいたったのではないかと思います。
堀 想像できないほどつらい時期もあったんでしょうね。
清水 だからこそ、今はプラスに考えて生きておられるのだと思います。無理にプラス思考になろうと思ってもなれないわけですから。
やはり最初は、起きたことに向き合う気持ちにいたるために、悲しんだり、怒ったりといった期間が必要なんです。それを経て、自分には片足があって、片足でもいろいろできる。片手でも運転できる。だから、世の中、捨てたもんじゃないなというふうに思えるようになられたのではないかと。
堀 お二人とも揃っておっしゃっていたのは、「生きていかなきゃいけないからね」って。その言葉がとても印象に残りました。当然、人より劣ってしまった自分、どうしようもない自分に落ち込んで、泣いて、怒って、悲しみに暮れたはず。でも、それを乗り越えて、自分から明るく言えるって、本当にすごいなと。あのおじさんたちに比べたら、私なんてまだまだだなと反省させられた出来事でした。
※本稿は、『今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)の一部を再編集したものです。
『今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)
『絶望の底に沈んでも、いつかきっと立ち上がれる。』ステージ4の舌がんと宣告を受け、舌の6割以上を切除する大手術を受けた堀ちえみ。医療チームのおかげで一命はとりとめたものの、歌手・女優として大事な言葉に障がいが残ってしまい、一時は絶望に沈む。しかし、家族や多くの人々の励ましに支えられ、徐々に気持ちは新しい目標へと向かっていく。絶望から希望へ、その心の軌跡を、がん専門の精神科医・清水研が読み解く。不安や悩みを抱え、苦しんでいるすべての人に。