「生活に制約のある15年を生きるか、もしくは短くなってしまっても、今まで通りの生活をなるべく続けたいのか」

治療の選択に悩んで

治療の選択肢は2つあった。1つは医師からすすめられた、手術による治療。がんが声帯に近い位置にあるので、声帯と食道を全部取り去って、首の中央に穴をあけて気管孔を作り、胃を引っ張り上げて食道を再建するという大手術だった。

そうか、私の病状だと、手術とは声帯を取ることになるのか……。ここで初めて現実に直面しました。私は話すことが仕事です。話せなくなるのは避けたかった。

「先生、なんとかほかの方法で治せませんか」

「うーん、手術で悪いところを全部取ったほうが、再発の心配が少なくなるんだけどね」

そう言いながら、医師はもう1つの選択肢を示してくれました。それは、抗がん剤による化学療法と放射線照射をあわせて行う「化学放射線療法」。この方法なら、声帯も食道も残せるし、体への負担も少なくてすむ。

でも、手術で全摘する場合に比べると、再発のリスクが高くなってしまいます。生存率でいえば5%落ちるのだとか。また、いくら治療しても効かず、どんどんひどくなる人もいる。どういう結果になるのかは始めてみないとわからない。そんな厳しい説明を受けました。