安東「信じることができる状態にまで心が回復していない」

安東　はい、少し整理させてくださいね。不倫のことを葵さんが知ることになって、そこから直樹さんは事実関係を全部お話しされたわけじゃない、ってことでしょうか?

直樹　話しましたよ。でも、さっきも言いましたが細かいところまで全部覚えてたわけじゃないんで、どこで何をしてたかを正確に話せたわけじゃありません。それを妻は隠してたみたいに言うんですが、それはちょっと違いますよね。

『夫は、妻は、わかってない。- 夫婦リカバリーの作法 -』（著：安東秀海／SYNCHRONOUS BOOKS）
すべての写真を見る

安東　なるほど。ということは、いくつかの出来事は葵さんが聞き出すことでオープンになってきた、ということで間違いありませんか?

直樹　そうですね、そうなります。

安東　葵さんの認識も同じですか?

葵　はい、大丈夫だと思います。でも、今でも本当に全部話しているかはわかりませんし、信じることもできません。

直樹　そう、いつもこうなんです。もう全部話してるからって言っても信じない。どうしたらいいかわからなくて困ってしまいます。

安東　そうですよね。直樹さんはきっと全部お話しされているんだと思うので、信じてもらえないと困惑してしまいますよね。でも、葵さんが信じられないのも無理はないかもしれません。相手の心はわかりようがないですから。まして不倫のように傷つく出来事があるとなおのことです。信じようとしても心がそれを拒みます。

直樹　それはどうしてですか?

安東　怖いからではないでしょうか。信じて、それがもし嘘だったり真実と違ったらまた傷ついてしまいます。信じられないのは疑っているから、というより、信じることができる状態にまで心が回復していない、ということなのかもしれません。

直樹　そうなの?

葵　……。

安東　言うまでもなく、パートナーの不倫はそれ自体がとっても苦しいことです。でも、それと同じくらい苦しいのが直樹さんのことを以前のように信じることができないことかもしれません。本当は信じたいと思うから、信じられない自分を責めてしまったりもしますよね。