高校生になり、数学が急激に難しくなった頃、微分積分がちっとも頭に入らず、よく友達と語り合った。

「微分積分なんて大人になって使うことがあるの? 足し算引き算かけ算割り算さえできれば生きていけるんじゃない?」

本当のところ、数学の教育というものは、日常生活で使うか使わないかではなく、そういう頭の働かせ方を知っておくことが大事なのだと、ずっとのちに教えられたが、いずれにしろ、私には足し算引き算かけ算割り算以上の数学的脳みその働きが功を奏した記憶はあまりない。ぜんぜんないかも。

だからこそ、算数だけは「大事」と理解していたつもりだ。でも今のご時世、足し算引き算かけ算割り算すら、使うことがなくなりつつある。スーパーに行けば、レジの店員さんと最低限の会話もそこそこに、ピッピッという音を何度か聞いたあと、

「三番の機械で会計してください」

「へ? これ? どこにお金入れるの?」

私は千円札を握ってオロオロする。ようやく「お札は横に入れるのか」と理解して突っ込むや、瞬時に下のポケットにジャラリとおつりが戻ってくる有り様だ。なんと便利でなんと計算要らずなシステムだろう。

タクシーに乗る。これまた画面に向かってスマホでピッピのピ。おつりを受け取る必要すらない。

「ネット決済ですね? 領収書要りますか? お忘れ物ないように」

下車の際、運転手さんとのやりとりはほとんどこれだけ。まことに計算知らずである。