芸人1年目は大木さんとの予定でいっぱい

そんなストイックな大木さんは会うたびに、「今日は何をしていたの?」とか「なんか最近あった?」と聞いてきた。そこで、僕が最近あった面白い話をすると、大木さんはクスリとも笑わず、「トークが出来ないとだめだぞ!」とダメ出しをしてきた。一緒に遊ぶことがトークのスパーリングになっているみたいなところがあって、プロボクサーを相手にふるう素人同然の僕のパンチは、空を切るばかり。

それでも僕と遊んでくれるのだから、何とか笑ってもらいたくて、大木さんと会う前に喋ることをノートにまとめたりするのだけれど、全くうまくいかない。面白い話も出来ないので、せめて誘いは断らず、待ち合わせにも1秒たりとも遅れないことが、自分に出来る唯一のことだった。

芸人1年目。スケジュール帳が大木さんと遊ぶ予定で真っ黒になっていた。

一緒に遊ぶのは基本的には楽しい時間なのだが、たまに面倒くさい時もあった。

ある日、大木さんが「伊豆の踊子」を観たいと言うのでレンタルビデオ屋さんに行くと、歴史がある作品のため、吉永小百合さんや山口百恵さん他、色々な俳優さんの主演でリメイクされており、複数の「伊豆の踊子」がそこに並んでいた。

大木さんは「どれが一番良いんだろうな……」と悩み始め、僕が「とりあえず一番新しいのを借りて観ますか?」と聞くと、「いや、とりあえず、これと、これと、これの3本借りて、全部観よう」

と言い出した。時刻は夜の11時30分。

冗談かと思ったら、大木さんはギラギラと本気の眼をしていた。