「待て! そこの新選組!!」

それから2日後。大木さんから飯を食べようと誘われたので、家の玄関を出てすぐにその法被を羽織り、自転車で大木さんの家に向かった。べつに大木さんが見ているわけではないので、着く直前で着れば良いのだが、「誠」を背負ってそんなことはできない。

自宅を出るのが少し遅れてしまい、三軒茶屋の街をものすごいスピードで自転車をこいでいた。

法被をなびかせながら角を曲がったら、道端にいた警察官と目があった。まずいと思ったが、もう手遅れ。その警察官は僕を見て、確実に怪しい奴と睨んできた。

東京の街を新選組の法被を着て自転車に乗って全力で走っている奴を、まともな人間だと思ってもらうほうが難しい。

横をすりぬけると、警察官がちょっと止まって! と言ったが、でも正直ここで止まったら大木さんとの待ち合わせに遅れてしまう。僕は何も悪いことをしていないという自信があったので、僕に言っているのではないと自分に言い聞かせ、そのまま去ろうとしたら、その警察官は慌てたのか、「あっ、ちょ、おい、待て! そこの新選組!!」と叫んだ。

警察官が「新選組!」と言った衝撃と、名指しの自分への呼びかけに、僕は自転車のブレーキをかけた。

京都で「新選組というのは、幕末に警察の役割をしていた」と聞いていたのに、現代で、新選組が警察に職務質問されている。何だか情けない気持ちになった。

結局、大木さんの家には待ち合わせから10分遅れで着いた。怒られるのを覚悟でこの話をしたら、大木さんが今まで聞いたことがないくらい大きな声で笑ってくれた。

 

※本稿は、『ちょっと不運なほうが生活は楽しい』(新潮社)の一部を再編集したものです


ちょっと不運なほうが生活は楽しい(著:田中 卓志/新潮社)

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