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人生は選択の連続です。もし今と異なる道を歩んでいたならば──。そこにはいったい、どんな未来が待ち受けていたのでしょうか。瀬山さん(仮名)は電車の中で思い出の中の人と出会ってーー(「読者体験手記」より)

一枚の10円玉が引き寄せた出会い

「昔の恋をいまだに引きずっている」と、妹はいつも鼻で笑うが、彼に身も心も捧げた私にとっては、まだ引きずり足りないくらいだ。

今から10年前のこと。実家の八王子に向かう私と妹の真向かいに、新宿から熟年カップルが乗り込んできた。私たちの前に座った彼らは、時折、女性が男性の額の汗をぬぐってやったり、目を合わせて笑い合ったりと、夫婦にしては仲がいい。

そんなとき隣に座っている妹から、突然メールが届いた。

「前にいるの、Sさんだよね?」

一瞬、ギクッとなったが、40年前に愛した彼に、似ているような似ていないような……。戸惑いのなかで、男性の様子に目が行く。かつて実家に何度も遊びに来て、私の弟妹とも会ったことがあるので、妹の記憶もまんざら信用できなくもない。

車窓から景色をながめていても、つい向かい側が気になってしまう。よりによって女とベタベタしているとなると、自然と私の目つきも厳しくなる。あちらもチラチラと私たちを気にしているようだ。でもいまひとつ確証がないのだろう。目が宙を泳いでいる──。

私が大手百貨店に入社したのは、高校を卒業してすぐのことだった。同期は200人近くいただろうか。広い経理部の事務所には、出納課や財務課、得意先課などいくつもの部署があり、私は主計課に配属された。主計課は大学卒の男性が多いこともあり、最初の1ヵ月はなかなかなじめず、辞めることばかり考えていたものだった。

それでも同期の女性たちとの会話や食事会は華やかで、郊外から通勤していた私も徐々に楽しさを覚え、周りの男性を見渡す余裕も出てきた。