ある日、職場のみんなと食事中に、公衆電話を使おうと席を立ったが、いざ電話をかけようとしたら10円玉の持ち合わせがない。そのときちょうど通りかかった男性に「10円玉、貸してくださる?」と声をかけると、同じ部で顔見知りだった彼は、人差し指に10円玉を載せて「どうぞ!」と差し出した。そのときお互いに好意を抱き、つき合いが始まったのだ。

彼は、私の行きたいというところにすべて連れて行ってくれたし、会社を挟んで、お互い反対方向に住んでいたが、どんなに時間が遅くなっても必ず私の自宅まで送ってくれた。両親の受けもよく、私は大人の女性として愛されながら、楽しい毎日を過ごしていた。

 

別れは突然にやってきた

あと少しで22歳を迎えるという頃、私は結節性紅斑という病気になり入院することとなった。入院中も彼に会いたくて、病院から何度も会社に連絡を入れた。すると、勤務中とはいえ、彼の声がいつもと違う。

そしてその夜、病院に来た彼から、「今までのことはすべてなかったことにしてほしい」と、突然告げられた。予想もしない言葉に戸惑った。何も考えることができず、「休みにゆっくり話を聞かせてほしい」と約束して別れた。

約束の日、連れて行かれた場所は公園墓地。彼は「もうこれ以上つき合うのは無理だ」と吐き捨てると、私を残し、1人で帰ってしまった。小さくなっていく背中に「どうして、どうして」と、むなしく叫んでみたが、彼が振り向くことはない。

私は知らない人の墓石に寄りかかり、しばらく泣いた。私のわがままが原因だろうか。それとも私の独りよがりの恋だったのだろうか。初恋は実らぬものとは聞いていたが……。