連絡を取り合うことが減ったのは、私が大学を卒業して教師になってからだ。忙しくなったのはもちろんだけれども、やっぱり暴力団関係者と親しくするのは教師としてどうか、という思いも少しはあったんだ。たぶん、志織さんもそうに思っていたはず。
だから、ずっと、長い間お互いに連絡を取り合うなんてことはなかったけれども、私たちはあの頃確かに仲の良い友人になっていて。一人、あの人の元に走っていって志織さんを心配していて。
暴力団の組長である長坂さんが殺されたということは、内縁とはいえ志織さんはどうなったのか。今、どうしているのか。
十数年ぶりに訪ねてみたアパートには誰もいなくて、どこに行ったのかもわからなくて、息子さんの夏夫(なつお)くんがバイトしている〈カラオケdondon〉に行って確かめてみようとも思ったのだけれども。
伝統と格式ある蘭貫学院の教師として、その行動にも品位が求められる。
三四郎(さんしろう)くんがバイトしているバッティングセンターに何度か通ったけれど、それを見た父兄から学校に連絡が入っていた。
バッティングセンターに行ってはいけないなどということはないけれども、女性教師が一人で行くべきところではないのではないか、などというお小言を貰(もら)ってしまった。わかってはいたけれども、やっぱりか、と。それがテニスコートだったらきっと何も言われなかっただろうに。
学生時代の仲間とレストランで食事をしていただけで、男一人に女三人という構成だったのにもかかわらず、変な風に曲解されて噂になったこともある。
だから夏夫くんに会いに一人でカラオケ店に行くことも、憚(はばか)られた。誰かに確かめたかった。志織さんが無事なのかどうか。どうしているのか。
尾道くんなら、きっとわかると思ったんだ。〈バイト・クラブ〉に出入りしているんだから夏夫くんとも会っているはず。
そして、お寺の境内(けいだい)に入っていくところを誰かの父兄に見られたところで、何を言われることもない。