何となく、尾道くんに電話したときの感じからわかっていたから安心してはいたんだけど。
「俺もこの間聞いた話だったんだけどな。ここんところ忙しくて〈バイト・クラブ〉にも顔出していなかったし」
「そうなんだね。あ、忘れてた! 受賞おめでとう!」
笑った。
「サンキュ。知ってたのか」
「新聞に出ていたよね」
出版社が主催する文学新人賞を、尾道くんが受賞していた。
「いろんな人から電話あったんじゃないの?」
「けっこう来たな。お前、俺と友達じゃないだろっていうのも。六花からは来なかったけどな」
ごめん。後で電話しようと思っていたのに、こんな事件が起こったものだからすっかり頭の中から抜けてしまっていたんだ。
「作家としてデビューできるんだよね?」
嬉(うれ)しそうに、頷(うなず)いた。
「受賞作が、そのまま本になる」
「いつ出るの?」
「来年早々」
「え、そんなに遅く?」
受賞したら、すぐに出るものと思っていたのに。
「さすがにすぐには出ないさ。もう作業はしているけど、校正というか、手直ししてる。それが終わってからだからな。本っていうのはどんなに急いでも出版するのには一ヶ月や二ヶ月はかかるものなんだ」
「印刷とかもしなきゃならないんだからね」
「そういうこと。いや、それで志織さんのことだ」
「うん」
尾道くんが煙草(たばこ)を取って、火を点(つ)ける。