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引っ越しの当日。
ここは夏夫くんが生まれたときからずっと住んでいたアパート。
そこから引っ越しするっていうのは、荷物を全部運び出してトラックに積んでいくっていうのは、なんか、ぐっとくるものがあるって夏夫くんが言った。
「わかる」
「うん」
三四郎くんと由希美(ゆきみ)ちゃんが同時に言う。
そうだった。この二人も、生まれてからずっと住んでいた家から引っ越したんだった。それも、二人ともすごく大きな家から小さなアパートへ、そう言ったら悪いけど、ほとんど没落みたいな感じで。
でも、三四郎くんも由希美ちゃんも品があるというか、そういうのはやっぱり裕福な家庭に育つと身に付くものなんだろうかって今更だけど思ってしまった。
カラオケの部屋で話してるだけじゃなくて、こうやって荷物を片づけたり動かしたりそういうことをしていても、二人の動きはちょっと違う。いろいろと、丁寧って言えばいいのかな。私がガサツなだけかな。
私も引っ越したことはある。お父さんとお母さんが離婚したときに、今のアパートに。
そのときは引っ越し屋さんにほとんど全部頼んだから、自分でたくさんの荷物を整理したり運んだりするのは初めてだ。
「オッケー。じゃあ男子たち、でかいものから運ぶぞー」
「いちばん大きいタンスから?」
「そうしよう」
男子が三人に尾道さん。男の人が四人いれば大抵のものは運べるんだって。
尾道さんと悟くんが凄いんだ。重いものを運んだり動かしたりする手順にすっごく慣れてる。
毛布を敷いてその上にタンスを置いて、毛布を引っ張って滑らせて移動するなんて初めて知った。尾道さんはなんでかわかんないけど、悟くんはやっぱりガソリンスタンドのバイトでいろいろ経験しているからなのかな。