「もしも、どうしてもお礼がしたいって思うのなら〈カラオケdondon〉で歌ってください」

「歌う?」

 三四郎くんが、笑った。

「僕たちが仲良くなったのは、筧(かけい)さんが〈バイト・クラブ〉を作ったからです。だから、志織さんも歌いたくなったら〈カラオケdondon〉にたくさん歌いに来てください。筧さんも喜ぶし、それはそのまま夏夫くんのバイト代にもなるんだから一石二鳥です」

 志織さんが笑った。

「本当にそうね。筧さんにお歳暮(せいぼ)送ったりするより、私の保険のお客さんや友達を連れて歌いに行った方がいいのね」

「いいと思います! 夏夫くん言ってました。母さんは歌が上手(うま)いって。中森明菜(なかもりあきな)そっくりだって」

「えー、それはどうかな」

 きっと本当に上手いと思うな。志織さん、声きれいだし。

 

    *

 

 部屋で、さよりちゃんとなみえちゃんが待っているんだったけど、もう一人いてびっくりした。

「六花ちゃん」

「志織さん」

 志織さんが、すごくびっくりして喜んで、ちょっと涙ぐんでいた。塚原先生が三四郎くんの担任だってことは、夏夫くんが教えていたからね。私たち全員と知り合いになったのはわかっていたけど。

 尾道さんが教えたんだって。そうしたら、自分も手伝いに行くって。

 皆で荷物を運んで、ひとつひとつ片づけていって。残してもなんだからってもう全部一から十まで全部片づけるぞって。

 お昼ご飯は、さよりちゃんとなみえちゃんが作ったおにぎりと豚汁。

 なんだか、ピクニックとかそんな感じもしてきて、本当に楽しかった。この先、もしも誰かが引っ越しをするときには、皆で集まって手伝おうなんて話した。

 ゼッタイに引っ越しはあるんだからね。

 私たちにはこの先の人生で何回かは間違いなく。

 

 

小路幸也さんの小説連載「バイト・クラブ」一覧

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