イラスト:平尾直子
突然、わが家に降りかかってきた金食い虫。身内の死後に遺された家や土地が、時間や心までも蝕んで――(「読者体験手記」より)

頼りのアパートは空き部屋だらけ

今日も、85歳の義母が一輪車を押して畑へと向かう。植えたばかりの白菜の苗や、葉が10センチほどに伸びた大根、人参に肥料をやるのだ。田舎では特に珍しくもない光景である。このおばあさんが、夫を亡くした6年前に6000万円もの相続税を支払った高額納税者であること以外は。

義母は、銀座の和光どころか地元のデパートさえ行ったことがない。嫁いできてから64年あまり、贅沢もせずに家と畑と田んぼを行き来する日々を過ごしてきた。それなのに、夫の死によって莫大な税金を支払うことになろうとは。相続とは皮肉である。

夫の実家は、いわゆる大地主。ひと昔前まではこの地域で一目置かれる家柄だったが、長男が独身のため本家に跡継ぎはいない。うちの夫は4人きょうだいの末っ子にあたる。義母に遺された莫大な農地5000坪ほどは、いずれ私の子どもたちにも負担となって降ってくることになる。考えるだけで頭が痛い。

それに相続税をすべて支払ったからといって、素直に喜べないのが現実だ。固定資産税は農地にしておけば多少安くなるとはいえ、年間100万円近くかかってしまう。もちろん畑は耕して土壌消毒を施さなければ何も植えられず、管理するだけでも支出額は馬鹿にならない。

農業収入が、ないわけではないのだ。義母と私が丹精を込めて育てているほうれん草、オクラ、キャベツ、玉ねぎ、じゃがいもなど野菜の数々……。しかしJAの朝市に出荷しても、せいぜい1つ100円の世界である。手間と労力を考えると、まったく採算が合わないことはおわかりいただけるだろう。

ちなみに年老いた義母の主な収入源は、農地以外の土地1500坪。県道沿いの不動産2軒を外食事業者へ貸し出し、3棟のアパートを経営している。それで税金や生活費を賄っているのだ。

不動産収入なんていうと聞こえはいいけれど、アパート2棟は、10部屋のうち4部屋が8年間も空室のまま。こんな田舎では、どこのアパートもそんな具合だ。

よく「相続税対策」と謳ってアパートやマンション経営を勧める不動産・建築業者がいるが、口車に乗せられてはいけない。近所にある、私鉄沿線の駅から徒歩5分という好立地のマンションでさえ、1階の貸し店舗のテナントは万年募集中なのだから。