イラスト:平尾直子
突然、わが家に降りかかってきた金食い虫。身内の死後に遺された家や土地が、時間や心までも蝕んむことも。林紀子さん(仮名)の場合、義祖母が住んでいた立派な家が無残な姿になったそうです(「読者体験手記」より)

おばあさんの家の庭が荒れている

「おばあさんが息をしていない」

義祖母の家の隣に住む義母から連絡が入ったのは、3月に入ったばかりの早朝でした。近所に暮らす私は急いで駆けつけましたが、救急隊員が施した心臓マッサージの効果もなく、義祖母は帰らぬ人となったのです。享年99でした。

遺されたのは、彼女が一人で暮らしていた平屋の一軒家。20代で嫁いできた時、舅にあたる人が結婚のお祝いとして建ててくれたと聞いています。柱など基礎の材木は栗、建具は桜。天井が高く、家の外周が広い縁側になっているなど、贅沢な造りです。以前、「いま同じものを建てようと思っても、材料が揃えられないし、職人もいない」と大工さんが話していました。

義祖母といえば、清貧を極めているような人でした。彼女は30代で夫と死別しています。子どもが独立してから長く一人暮らしでしたが、自室はいつ入ってもゴミやちり一つ見当たらない。家財道具もほとんどなく、小さな笥が2台、鏡台、文机、部屋の真ん中にちゃぶ台があるだけです。

庭も家の中も亡くなるその日まで、清潔かつ整理整頓されていました。夫との思い出が詰まったこの立派な家を守り抜き、次の世代へつなぐ――それが自分の使命だと感じていたのではないでしょうか。そんな思いのこもった家の管理は、夫を少し前に亡くして隣で一人暮らしをする義母と、私の夫が引き継ぐことになりました。

それから7年後のある日。たまたま義母の家を訪れた時、何気なく義祖母の家の庭を覗いたところ、異様に荒れていることに気づきました。庭木は平屋の屋根を覆いつくし、落ち葉も積もっている。詰まった雨どいから溢れた雨水が地面で跳ね、家の外壁や窓ガラスを汚しています。

夫は休日のたびに実家へ帰っているはず。てっきり隣の義祖母の家の庭木を切って、雨どいの掃除もしているものと思っていたのに。問いただすと、あろうことか夫は実家で何もせず、本や漫画を読んでリフレッシュしていたと言うではないですか。義祖母の家の荒れ具合が目に入らなかったというからあきれました。