イラスト:髙安恭ノ介
あのとき、あの選択をしなかったら……。今の私は少し違っていたかもしれない。るりさん(仮名)は、夫との老後が「まさか」の展開にー(「読者体験手記」より)

今考えれば、初めからこの結婚はおかしかった

とある居酒屋に高校の同級生から呼び出され、少しお酒が入ったところで刺身をつまんでいると、「あのね、るりちゃん、人生にはいろんな坂があるけれど、最後の坂は、まさかというのがあるんだよ」と言われた。

「まさかの坂」とはよく言ったもんだと感心していたが、私にもやってきたのだ。筋書き通りにならない、人生のまさかの坂が。

今の夫とは再婚で、夫は初婚、私は前夫との娘と息子を連れて、しかももれなく私の育ての母親がついてきた。夫は私と同い年で、私が経営していたスナックの常連客だった。時代もよかったのか、客筋は公務員が主で、女の子も7、8人つかっていた。

私は声フェチで、大勢いる客の中でいい声だなと時々思っていた男が、今の夫である。背は高く、メガネをかけ、目はあまりにも小さく、深海魚がこちらをのぞいているよう。鼻は高く、唇の色は黒紫で色が悪い。ペラペラとよくしゃべり、声がとおる男で、気が合って時々デートしていた。

聞くところによると、40にもなって独身とは、と彼の母親は親類にやいのやいの言われ、身を縮めているということだった。

私は当時、子ども2人と養母を養い、店を経営するだけでせいいっぱいだった。

夫は変わり者だが頭はいいし、おもしろいが、中身のない話ばかりで、子どもっぽく、びっくりさせられることが多かった。結婚初夜にはホテルもとらず、花嫁を放って自分の妹とデパートに買い物に行ってしまった。私はあまりのショックで寝込んでしまい、即、別れようと思ったものだ。

しかし、遠方からかけつけてくれた親類に「1日で別れる」とは言えず、養母のとりなしもあり、我慢したのだ。

しかし、今考えれば、初めからこの結婚はおかしかったのではないかと思われる。