ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》1898年 スウェーデン国立美術館蔵
Nationalmuseum, Stockholm / Photo: Nationalmuseum

 

ノスタルジーと心地よさ。北欧芸術の魅力に浸って

19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した、デンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)。本展「ハマスホイとデンマーク絵画」は彼の作品約40点を中心にデンマークの近代絵画を紹介する、日本初の本格的なデンマーク絵画展である。

静まり返った室内にたたずむ後ろ姿の人物や、誰もいないアパートメントの一室。モノトーンと言ってもいいような落ち着いた色調に淡く遊ぶ光の効果、人や物のかすかな「気配」を感じさせる静謐な画面は、ハマスホイが“北欧のフェルメール”といわれる所以である。

1898年に移り住んだストランゲーゼ30番地のアパートと、妻イーダの後ろ姿を描いた《室内》は、まさにそうした画風が確立された頃の代表作。室内のミステリアスなムードに魅力を感じる人は多いだろう。

しかし当時のデンマーク人にとってハマスホイの絵画は、懐かしさを感じるものでもあった。実は画中のインテリアや小物は、制作時より一昔前のもの。そのレトロ感が彼らのノスタルジーをかきたてる要因になっているという。

ヴィゴ・ヨハンスン《春の草花を描く子供たち》 1894年
スケーイン美術館蔵 Art Museums of Skagen

 

あまり生活感が感じられないハマスホイの作品とは対照的に、彼と同時代のデンマークの画家たちは、北欧の美しい自然や、そこで暮らす人々の日常の幸せを数多く絵にした。

花瓶の花を仲良く写生する4人の子供たちを描いたヴィゴ・ヨハンスン《春の草花を描く子供たち》には、デンマーク人が大切にしている「ヒュゲ(hygge:くつろいだ、心地よい雰囲気)」という価値観が息づいている。

作品のなかにさまざまな「ヒュゲ」を見つけながら鑑賞するのも、本展ならではの楽しみ方といえるだろう。

 

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無機物が生み出す異空間へ

鉄や石膏など重い素材を使用しているにもかかわらず、爽やかな空気をはらんでいるように軽やかでリズミカルな作品をこの世に生み出している青木野枝(のえ)(1958-)。本展「青木野枝 霧と鉄と山と」も大気や水蒸気、うつろいゆく大自然をテーマとした展覧会だ。

小さな鉄の樹木が林立するアプローチを抜けると、そこにあるのは鉄やガラス、石膏などでつくられた深山幽谷。ガラスケースに並ぶ透明な波板が、谷底から勢いよく噴き上げる霧のようにみえてくる。

2019年には鹿児島で青木の「霧と山」展があったが、本展では会場にあわせて作品が再構成されているために、風景も印象もまったく違う。府中市美術館の展示室には1〜2点ずつ大規模な作品が設置され、部屋を移動するたびに、幾重にも重なる山々を踏み分けていくような感覚だ。

一足ごとに変わって見える周囲の景色も計算しつくされているに違いない。時間を忘れて、鉄や石膏が織りなす異空間に迷い込んでみるのもいいものだ。

 
青木野枝《霧と山》2019年 鹿児島県霧島アートの森展示風景
撮影:山本 糾 courtesy of ANOMALY

 

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初公開の《雪女》
妖艶な姿に画家が込めた思い

京都でも有数の観光地、嵐山は渡月橋(とげつきょう)の近くに、2019年の秋にオープンした福田美術館。地元実業家の私設美術館である同館では、開館以来、貴重なコレクションがお披露目されている。

本展「美人のすべて」では京都が誇る日本画家・上村松園(うえむらしょうえん)を中心に、東西の日本画家によるさまざまな美人画を紹介。

なかでも注目したいのは、近年発見された《雪女》という松園の作品だ。太刀を差し出す雪女を、白いシルエットだけで描くという、松園にしては大変珍しい技法で描かれている。もちろん本邦初公開。

艶やかな美人画が並ぶなか、暗闇に浮かび上がる雪女の姿は、異彩を放つことだろう。

 

上村松園《雪女》