イラスト:カワムラナツミ
旅慣れてもいないのに、ひとりは不安で寂しい――。しかしそこには、連れがいないからこその出会いも。ひとり旅デビューで驚きの体験した人の手記です。(「読者体験手記」より)

ツアー参加を決意するも、前途多難の幕開け

年明けに旅行会社からダイレクトメールが届き、私は「地中海クルーズ8日間の旅」に目を奪われた。憧れの地中海、しかも安くて魅力的なツアーだ。とはいえ、息子たちが学生だったころは面倒な手続きも彼らにお任せで一緒に旅行を楽しんでいたが、今は社会人になったため気軽に誘えない。心当たりの友だちも、予定が合わないという。

還暦過ぎの海外ひとり旅は、健康、治安、そして慣れない手続きなど不安な要素しかない。しかし簡単には諦められない理由があった。私はこれまで、地中海クルーズが優勝賞品のクイズ番組を見るたび、羨ましくてため息を漏らしていたのだ。

加えて、趣味で入っていた卓球サークルで会員のじいさんからどさくさに紛れて手を握られたりお尻を触られたりするので、純粋に楽しめないことに辟易。先ごろ退会したばかりだった。そんな足踏み状態から脱出すべく、思い切ってひとりで参加を申し込んだ。

いよいよ出発3日前。旅行会社から挨拶の電話が入り、私の高揚する気持ちをよそにある事実が告げられる。なんと船内では、クレジットカード決済しかできないというのだ。実は私はこれまで何もかも息子に任せていたため、自分のカードの暗証番号すら覚えていなかった。

カードを作った店舗に慌てて電話して暗証番号を教えてほしいと泣きついたが、「本人でも電話では教えられない」と取り合ってもらえない。しかも出発間近の金曜日。土日に入ってしまったら間に合わないと、カードを作った店舗の閉店時間が迫る夕暮れ時、ラッシュアワーのなか車を飛ばす。なんとか間に合い暗証番号を教えてもらった翌朝、今度は高熱を出して寝込んでしまった。

39度の熱にうなされ、ひとりごちた。いつも人任せな私がひとり旅をすることの無謀さよ……。これでは、入金した旅費はドブに捨てるようなものではないか。床の中で唸り続けた。ほとんど諦めていたが、なんと出発当日の朝には37度まで回復! 這ってでも行ってやる、と重いキャリーケースを引いて家を出たのだった。

行けるところまで行こう。まずは東京、成田、そしてクルーズ出発地のイタリア。船に乗り込むころには、すっかり元気を取り戻していた。