イラスト:カワムラナツミ
旅慣れてもいないのに、ひとりは不安で寂しい――。しかしそこには、連れがいないからこその出会いも。ハプニングすら旅の醍醐味になるのです。種田さえ子さん(仮名)が懸賞で当たったのは…(「読者体験手記」より)

目の前に並ぶビールに思わず笑みがこぼれ

ある日、懸賞で「ビール工場見学・ペアご招待」が当選しました。夫婦でビールが大好きなので、私は大喜び。しかし夫は仕事で行けそうにないと言います。仕方ない、諦めるか……。そう思っていると、夫が「誰かと行って来たら」と気を利かせてくれました。

誰を誘おうか。友人知人の顔を何人か思い浮かべてみますが、昔ほどビールが飲めなくなったという人ばかりです。実は、私もそう。缶ビール1本が限界で、それ以上飲むと胃がキリキリと痛みます。そうか、思えば私もそんなに飲めないのね。でも造りたてのビールは格別と聞くし、日帰りなら……。考えあぐねた末、「よし、ひとりで行こう!」と決意したのでした。

ツアー当日。あらあら、やはりみなさん、どなたかと一緒です。そんななか、ビールの試飲もランチの飲み放題もひとりで、と想像するとなんだかおかしくて、笑えてきます。

工場に到着したときには、ほどよくお腹がすいていました。ああ、さぞかしビールが身に染みることでしょう。待望の瞬間を待ちますが、お楽しみは最後。まずは工場の見学からです。広い敷地内を、思いのほか時間をかけて巡りました。初めて知る製造工程に感動しながらも、じわじわと頭がビールでいっぱいになっていきます。

なかなか終わらない見学に痺れを切らし、「もう、早く飲ませてよ!」と欲望が爆発しかけたそのとき、「それでは、造りたてのビールの試飲をしていただきます」と待ち望んだ声が。

3種類のビールと黒ビール、そして小袋のおつまみが配られました。この絶妙のタイミングに感服! ギリギリまでじらされて、ビールの登場です。さっそく渇いた喉を潤すと、これ以上ない美味しさでした。

「あー、し・あ・わ・せ」。目の前に並ぶビールを飲み干したころにはかなり酔いが回り、ひとりで来ていることなどどうでもよくなっていました。大きめのグラスで4杯。普段はこんなに飲みません。いえ、こんなに飲んだのは人生で初めてでした。

ちゃんと立てるかな、歩けるかな。立ち上がってみました。うん、なんとか大丈夫。まっすぐとはいえないかもしれないけれど、正常に歩けている気はします。自然と笑みがこぼれました。