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本日9月15日のNHK「おはよう日本」で取り上げられた「ヤングケアラー」。18歳未満で家族の介護を担わざるをえない「子ども・若者たち」を指す言葉だ。2020年3月に組まれた『毎日新聞』の特集によると、その数は、「通学や仕事をしながら家族を介護している15~19歳の子どもが、2017年時点で全国に推計3万7100人」にのぼるという。周囲から孤立しやすく、進路も左右されかねないヤングケアラーたち。本問題を研究する澁谷智子教授が、当事者の声からあぶりだした実態は

※本稿は、澁谷智子著『ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)の一部を、再編集したものです。

周囲に合わせるのが苦しくなる子どもたち

「ヤングケアラー」とは、慢性的な病気や障がい、精神的な問題などを抱える家族の世話をしている、18歳未満の子どもや若者のことである。

家族の誰かが病気や障がいのために、長期のサポートや看護、見守りを必要とし、そのケアを支える人手が十分にない時には、未成年の子どもであっても、ケアの役割を引き受けて、家族の世話をする状況が生じる。

しかし、子どもが家族のケアをすることへの理解は、なかなか得られにくい。ケアを担う子どもや若者が年輩のケアラーに比べて深刻なのは、学校のような同質性の高い集団で、まわりの子とは違う経験をすることを通して、周囲に合わせるのが苦しくなってくることだ。

著者の澁谷智子さん

高校生の時に母ががんになったある学生は、サッカー部に所属していたが、同学年の子たちが試合に向けて必死に練習するなか、「お母さんが死んでしまうかもしれない」と不安で、練習よりも病院への見舞いを優先させた。同学年の部員からは、「お見舞いに行ったって、おまえにできることはないじゃん」「練習来いよ」と言われ、最終的に彼はサッカー部に居づらくなって、退部した。今でもその経験は、彼にとって苦い記憶となっている。

生死を意識せざるを得ない事柄に直面しているヤングケアラーと、その年齢の子に応じた目標に向かって勉強や部活を頑張り、若者としての生活を楽しんでいる同年代とでは、使える時間や気力に違いが出てきてしまう。

認知症の祖母を6年間介護したAさん(インタビュー当時29歳)は、当時を振り返ってこう語る。

Aさん 本来、人間にはいろんな場所がある。家庭とか、学校とか、地域とか。でも、何かしら家庭に問題があって、自分がいられる場所を複数維持できなくなってしまう人もいる。1人の人が使えるエネルギーの限界ってある。ケアに関わっていると、学校で自分の居場所を見つけるために力を割こうという気力がなくなる。

私は、家と学校のどっちの場所でも居場所を確保しようとした。高校に入って、友達と普通に過ごすためには、話を合わせられるようにしないといけない。普段はテレビを見る時間もないのに、芸能人の話題を調べたり。何かしらの事件、芸能人の誰が結婚したとか。そうやって調べないと、こういう簡単な会話をする時の会話の元がなくなっちゃう。携帯で調べて、ドラマの要約や先週のあらすじを見たり。すごく不自然だし、むなしくなる。そのドラマを見ていないんだから。