イラスト:花くまゆうさく
詐欺のニュースを見聞きして、「こんな怪しい手口になんでひっかかるんだろう?」と思っていても、わが身に降りかかると気づけないもの。相手を疑いもせず、金銭をダマし取られた人たちの体験を聞いた。後編は4000万円という巨額のお金を奪い取られた女性の体験談です(取材・文=田中有 イラスト=花くまゆうさく)

〈前編「86歳母を追い詰める卑劣なオレオレ詐欺犯」はこちら〉

信頼した男は「ダマしの天才」 

詐欺を働くには、緻密な台本と演出、相手を信じ込ませる演技力が必要だ。しかし、この世には、まるで人をダマすために生まれてきたような“才能”の持ち主がいる。

「あまりに嘘ばかりつかれるので、私のほうが間違っているのかしらと思えてきて。一時は精神的におかしくなりそうでした……」

キヨミさん(61歳)が、消え入りそうな声で話し出した。小柄な体に濃紺のスーツが少しだぶついている。

キヨミさん夫妻が経営する愛知県の会計事務所で、相田という男性を雇ったのは今から17年前のことだ。銀行勤務の経験があり、体も声も大きく自信に満ちた40代の相田は、瞬く間に夫の信用を得た。

その2年後、夫が心臓発作で急逝。多額の保険金が入ったが、キヨミさんは途方に暮れた。娘と息子は高校生、大学生でまだ学費もかかる。夫の後を継いで代表になったものの、事務所を畳もうかと迷っていた彼女を励ましたのが相田だった。

「私の誕生日にパーティーを開いて、『これからはみんなでキヨミさんを支えて頑張ろう!』と盛り上げてくれて。思わず涙がこぼれました」

体制を一新し、規模を縮小して事務所は再出発した。1年ほど経ったころだろうか。相田が地元の企業の名をあげ、「資金繰りがうまくいっていないらしい」と、「出資」を頼んできた。あと少しで軌道に乗る企業だから、と。相田の言葉に乗せられたキヨミさんは、何度か100万単位の現金を手渡した。