イラスト:古村耀子
自分のことがわからなくなり、身の回りのこともできなくなってしまう……そんなイメージのある認知症。ですが、自宅で一人暮らしをしている方もいます。どうしたら、そしていつまで一人で暮らせるのか。認知症患者の在宅診療に長く携わる専門医・高瀬義昌さんに聞きました。※高瀬さんのたかははしごだか(構成=古川美穂 イラスト=古村耀子)

認知症になった人は、どう医療につながるか?

2060年には認知症患者が推計1150万人になるというデータが厚生労働省から出ています。将来、認知症になるリスクは誰もが持っていると考えていいでしょう。

特に女性は平均寿命が長く、配偶者に先立たれて独居の状態で認知症になるケースも多いと思います。在宅でも周りのサポートが整っていたり、あるいはスムーズに適切な施設へ入居できればよいのですが、なかなか現状はそうなっていません。

私が診ている認知症の方の中で、一人暮らしをしている割合は全体の4分の1ぐらい。家族や親類がいても遠方に住んでいたり、関係が疎遠だったりして、足しげく面倒を見に通ってくれる人がいない方も多いのが実情です。

独居の認知症の方が医療につながるのは、たいてい地域包括支援センターを通してです。その際に、認知症そのものだけでなく全体的なソーシャルサポートも重要になってきていると切実に感じています。

認知症が疑われると、まず「鑑別診断」をしなければなりません。認知症にも原因となる病気が80通りぐらいあり、手術などの外科的治療や栄養管理で改善するものから、なかなか根本的な治療が難しいものまで非常に多岐にわたります。その中で早期に簡単に治せるものを見逃さないことが、地域で認知症診療に携わる私たちにとって非常に重要なのです。

しかし、たとえば外科手術で認知症が改善するような病気が見つかったとき、誰が手術の同意書にサインをするのか。包括支援センターで親類縁者を辿っても、「何十年も会っていないからサインはできない」と断られてしまうケースも多いのです。

あるいはこんな事例もあります。かつてマンションのオーナーだった独居の方が認知症になって引きこもり、家がゴミ屋敷で中に入れない状態になってしまった。結局、消防隊と警察が出動して、ドアチェーンを切ってなんとか助け出しました。

また、悪徳業者につけ入られて、1800万円がどこかに行ってしまったという方もいます。家の中には健康食品が1年分とか、いろいろなものが積み上げられている。そんなケースも日常茶飯事です。

認知症で一人暮らしの方が急病になって救急車を呼んだとき、私がスクーターで搬送先の病院に先回りし、入院の手続きを代行したこともありました。まあ、そこまでやる医者もあまりいないと思いますが(笑)、ではその作業をほかの誰がやるのかということですよね。

大きな病院とかかりつけ医の、懐の深い連携や、行政も含めてのつなぎが重要になってくる。場合によっては税理士や弁護士、司法書士などとの連携も必要になります。そういった多方面での協力体制を日頃から地域で作っておかないと、いろいろな困りごとが起きたときに対応が難しいということです。