背の高いスチール棚の並んだ暗い部屋に、ひとり閉じこもる。そんなとき、私は塔に幽閉されたお姫様のような気がした。

陽の差さない塔の中でファイリングしながら、ときおり天井を見上げる。そこからわずかにこぼれる光は、細い線となって、私を追い越すように伸びていく。

「これは私の生涯の仕事なのだろうか……ずっとこのままはいやだなあ」と考えた。

──私はここから出られるのだろうか──。そう思うと、ちょっぴり泣けた。

カブちゃんのお腹が日に日に大きくなり、「ああ、もうすぐカブちゃんはいなくなってしまう」と思うと悲しかったが当然その日はやってきた。

赤ちゃんが出てくる直前にカブちゃんは退社、私は独り立ちする。そうなると私の仕事の出来なさは目立つようになった。それまでカブちゃんに護られていたぶん、ダメなままの私の姿を、職場のみんなにさらすことになった。

「……どうやらミルちゃんにこの仕事は向いていないらしい……」と、周りの人全員の意見が暗黙のうちに一致したかと思われるちょうどその頃、Tさんから久しぶりの連絡がきた。

その2年ほど前、私は学生ビッグバンドのコンテストで演奏していたところ、Tさんに声をかけられていたのだった。

私の所属していたスウィングジャズ研究会では、カウント・ベイシー・オーケストラや、ベニー・グッドマンのダンスナンバーなど、古めのビッグバンドジャズを演奏していた。いまではめずらしくないが、ジャズバンドの紅一点で、サックスとクラリネットを持ち替えながらスタンドプレイしていた私に、興味をもたれたのだという。Tさんはアウトドア雑誌などに記事を書くフリーランスライター(のちにデビュー作がベストセラーとなり小説家になる)で、面白そうな学生に、いつも目を光らせていたのである。

ミニスカートを穿き颯爽とした美人のTさん、を通してかいま見た出版業界は、面白そうだった。そして私は彼女の薦めで、「ボス」と出逢う。
つづく