《模造 螺鈿紫檀五絃琵琶》 正倉院事務所蔵

 

人間国宝ら伝統技術保持者による正倉院宝物の再現

奈良・東大寺大仏殿の北北西に立つ、校倉(あぜくら)造の正倉院。かつてはそこに、聖武天皇ゆかりの宝物をはじめ約9000点もの貴重な品々が納められていた。本展はそれらを再現した模造作品から選りすぐった逸品を、一堂に紹介する展覧会だ。

調度品から、楽器、文書、染織品の類まで、正倉院宝物のほとんどは奈良時代のものである。しかし1300年近い時を経ているために正倉院宝物は極めて脆弱で、メンテナンスをしなければ、やがては塵芥(じんかい)に帰するという。読者のなかには、昨年東京国立博物館で開催された「正倉院の世界」展で、そんな宝物の残骸をご覧になった方がいるのではないだろうか?

宮内庁では、明治時代から宝物の修理を行うと同時に、当初の宝物の姿をよみがえらせるための再現模造事業も継続してきた。とくに昭和47年(1972)からは、宝物の材料や技法、構造の忠実な再現という重責を、人間国宝ら伝統技術保持者たちが担っている。そのため本展は、正倉院宝物の当初の輝きを紹介すると同時に、究極の伝統工芸品展ということができるだろう。

代表的な作品が、《模造 螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)》である。オリジナルは聖武天皇崩御の後、光明皇后によって東大寺に納められた宝物の目録『国家珍宝帳』にも記載されたもので、古代インドからシルクロードを通じて伝来した、世界で唯一現存する「五絃」の琵琶だ。今回はこの貴重な琵琶を、実際に演奏が可能な楽器として再現することを重視し、8年がかりで完成させた。バチを当てれば神秘的な響き。かつて大仏が開眼した頃には、こんな楽の音が宮殿を満たしていたのかと、天平時代への関心がかき立てられることだろう。

《模造 黄金瑠璃鈿背十二稜鏡》 背 正倉院事務所蔵

また、18枚の花弁を組み合わせた《模造 黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(おうごんるりでんはいのじゅうにりょうきょう)》の現宝物は、正倉院に伝わる鏡のうち唯一の七宝製品。鮮やかな緑色が印象的な作品だ。

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おシャレで豊かだった戦前の面影

東京都庭園美術館は、1933年、朝香宮家の住居として建てられた。ルネ・ラリックやアンリ・ラパンなど、当時のフランスを代表する一流デザイナーの意匠が各所に残る、本格的なアール・デコの館である。本展はこの貴重な建物内部に居住空間だった頃のようなインテリアを置き、そこに流れていた空気までを再現。と同時に、23年の関東大震災から見事な復興をとげ、人々が自由を謳歌した30年代の東京のモダンライフを紹介する。

たとえば新海覚雄(しんかいかくお)の《椅子に倚る女》。和装の女性は、先端的なデザインの金属パイプ椅子に座り、彼女の前には涼しげなガラスのテーブルが置かれている。現代的な女性のたたずまいといい、おシャレな家具といい、今でもどこかの劇場やホテルなどで遭遇しそうな光景である。約90年前にあった文化生活の豊かさに見入るとともに、その数年後にはこの時代を知る人々の多くが戦争に巻き込まれていくことに、やりきれなさを覚えるのは、私だけではないはずだ。

新海覚雄《椅子に倚る女》1937年 東京都現代美術館蔵

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刺激あふれる現代アート インドの3人組が監修する

2001年より横浜美術館を中心に、3年に1回行われてきた現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」。第7回となる本展は、インド、ニューデリー出身の3人のアーティスト集団「ラクス・メディア・コレクティヴ」による監修で開催する。横浜・寿町の日雇い労働者にして哲学者の西川紀光(きみつ)や、16世紀に南インドを治めていたスルタン、アリー・アーディル・シャーなど、時代も場所も異なる5人の生き方や考え方を例示する『ソースブック』を手に、思考と思想の旅に出る。かつてなかったタイプのトリエンナーレである。