100歳まであと11年なんて

昨年の冬、地域包括支援センターから「高齢者への虐待が行われていると通報がありました」という電話を受けた。

前日、夫と喧嘩になった義母は、「年金で入れる老人ホームを紹介してくれなかったら、ここのトイレで自殺する」と刃物持参でセンターに訴えにきた、と担当者から説明された。「ご家族が心配するから」となだめると、「しゃべり足らん。もっと心配させてやらないと」と言ったとか。

気が済まないその足で友達が入居している高齢者向け施設に行き、今度はそこの施設長相手に悲劇のヒロイン劇場を繰り広げたらしい。センターに通報したのは、この施設長だった。

騒動を機に夫も決断。認知症の検査を受けさせたところ、脳に萎縮は一切見られず、認知症ではないことが確定した。89歳のわりに優秀で、「100歳を超えても、頭はしっかりしているでしょう」と医師から太鼓判を押され、私は参ってしまった。センターの担当者は正しかったのだ。

ケアマネさんから「よく我慢してきましたね。もう距離をとったほうがいい」と労われても、虐待家族の汚名を着せられたのは恥ずかしく、仕事を辞めようかと思うほど悩んだ。

義母は、とにかく話術に長けている。明らかにおかしな話でも、話が巧みだから、みんなつい騙される。友達に愚痴っている分にはにらまれる程度で済むけれど、警察や市役所や地域包括支援センターを巻き込むと市内全域で情報が共有されるわけで、恥ずかしいというレベルでは済まないのだ。100歳まであと11年ある。とても私はつき合いきれない。

私は家を出ることを決め、夫に告げた。私も70近い高齢者なので、ワンルームマンションを借りるにもハードルが高い。でも、逃げ遅れたくない一心で仮契約を済ませたその日、偶然ケアマネさんも同席してくださって、話は急展開した。

私ではなく義母が高齢者施設に引っ越すことになったのだ。自分が家を出る、と言ったのは義母だった。私が出ていくなんて考えもしなかったようで、さすがにショックだったらしい。入居の日も施設の玄関先でまた一芝居打っていたが、これ以上問題を起こさないといいけれど。

90歳を目前にして、体力も気力もあり余っている義母からは、まだ当分目が離せない。

 


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