《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》2000-02年、油彩・キャンバス、196×296 ㎝、シカゴ美術館蔵 ©Peter Doig. The Art Institute of Chicago, Gift of Nancy Lauter McDougal and Alfred L. McDougal, 2003. 433. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

ゴーギャン、マティス、ゴッホ……近代画家たちの構図やモチーフに懐かしさも

1990年代のデビュー以来、アート界の第一線で活躍してきたピーター・ドイグ(1959-)。世界的な美術家でありながら、日本では未だ知られていない彼の世界を、72点の作品で紹介する我が国初の個展である。

スコットランドのエジンバラに生まれたピーター・ドイグは、94年、イギリスの現代美術大賞ターナー賞にノミネートされて以来、ロンドンのテート美術館やウィーンの分離派会館など、世界の名だたる美術館で個展が開催されてきた。現在は中南米、トリニダード・トバゴの首都ポート・オブ・スペインを拠点に活躍中である。

《ポート・オブ・スペインの雨 (ホワイトオーク)》 2015年、 水性塗料・麻、 301 × 352 ㎝、作家蔵 © Peter Doig. Collection of the Artist. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120

幅3メートルを超える彼の大型作品は、映画やおとぎ話の一場面を彷彿とさせる具象画だ。たとえば広大なダムの門前に、時代がかった衣装を身につけた2人の男性が立つ《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》。神秘的なエメラルドグリーンの世界に、どこまでも続くカラフルな塀のある小道、降りそそぐ光の粒が、夢幻的世界を作り出している。本作を構成しているのは、実際のダムを写した20世紀初頭の古い絵葉書と、作家自身が友人と舞台衣装を着て撮影した数十年前の写真からのイメージであるという。画面にノスタルジックな雰囲気が漂う理由のひとつかもしれない。

またドイグの作品には、ゴーギャンやマティスなど、近代画家たちの構図やモチーフが潜んでいる。トリニダード・トバゴの街角にライオンが現れた白昼夢のような《ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)》は、背景の鮮やかな黄色の建物にフィンセント・ファン・ゴッホの《黄色い家》などのイメージが重なる。ドイグの作品を観て、「初めてなのに懐かしい」と感じてしまうのは、写真、映画、絵画などあらゆる視覚の記憶が呼び起こされるから、といえそうだ。

*****

観音様の七変化がすべて観られる

奈良時代の養老2年(718)、大和国長谷寺(はせでら)の開基・徳道(とくどう)上人が、閻魔大王から「人々に観音菩薩の慈悲の心を説くように」とお告げを受け、起請文と33の宝印を授かったことにはじまる西国三十三所。観音霊場を巡る日本最古の巡礼路は、和歌山県の那智山青岸渡寺(せいがんとじ)から岐阜県の谷汲山華厳寺(たにぐみさんけごんじ)まで、約1000キロメートルに及ぶという。本展ではその西国三十三所の至宝を一堂に紹介するとともに、聖観音や十一面観音など、人々を救うために観音が変化した七種の姿をすべて観ることができる。

また、寺外出陳が初めてとなる秘仏も公開。下の《如意輪(にょいりん)観音坐像》は、第十八番札所である、京都・頂法寺(ちょうほうじ)(六角堂)の秘仏である。平清盛の娘で安徳天皇の母である建礼門院徳子(けんれいもんいんとくこ)が、治承2年(1178)6月、安産祈願のために寺に寄進したという。未だ新型コロナウイルスの終息が見えない昨今、観音様の慈悲の心と対峙しに訪れるのもいいかもしれない。

秘仏《如意輪観音坐像》 京都・頂法寺(六角堂)

*****

洗練されたデザインと精緻な技 和洋の宝石が楽しめる

世界最古の宝石のひとつである真珠の装飾文化を紹介する展覧会。地下1階の第一会場では、古代から近代までヨーロッパ各国の真珠の装身具を展示。なかでも19世紀の真珠のジュエリーは、デザインも多様で見ごたえがある。また2階の第二会場では日本における真珠の歴史を知ることができる。とくに世界で初めて真珠の養殖に成功したミキモトの、明治から昭和初期にかけての帯留や髪飾りなどは、洗練されたデザインと精緻な職人技が見事である。

《パール、エナメル、サファイア&ダイヤモンドネックレス》カルロ・ジュリアーノ1880年頃イギリス穐葉アンティークジュウリー美術館