撮影:本社写真部
新しい世界へ飛び込むことは、脳にも体にも良い効果をもたらす」と言う、茂木健一郎さん。82歳でゲームアプリを開発した「世界最年長のプログラマー」、若宮正子さんの経験から得られるヒントとは。(構成=山田真理 撮影=本社写真部) 

「自分で作れば」と言われたので

茂木 僕も若宮さんのゲームアプリ「hinadan」をやってみたんです。

若宮 まあ嬉しい。いかがでしたか。

茂木 意外と苦戦しました。男雛と女雛を最上段に置くことくらいはわかるけど、三人官女や五人囃子になると、もうお手上げで。

若宮 その点、私たち「おばあちゃん」は、小さい頃から段飾りを見ていますでしょう。茂木さんのような若い方よりも上手くできて、優越感が味わえるという仕掛けなんですよ。

茂木 55歳の僕が若い方かあ(笑)。あと、ゲームによくある「あと何秒」という表示がないのも新鮮でした。

若宮 年寄りは、急かされるのが苦手。マイペースで遊べる、簡単なシニア向けのアプリがないかなあと思って。その分野に詳しい友人に「作ってよ」と頼んだら、「自分で作ればいいでしょう」と言われたのです。

茂木 えっ、じゃあプログラミングを始めたのは、何歳ですか?

若宮 81歳です。

茂木 それはすごい。確か独学なんですよね。

若宮 はい。それまでも、表計算ソフトのエクセルで文様のアートを描いたりしていたので、軽く考えていました。でも、プログラミングを一から学ぶのは結構大変。「アプリを作りたい」という目標があったから、参考書や友人の助けを借りて、コツコツ半年かけて完成させました。

茂木 2017年2月、そのアプリをアップル社に申請して公開した途端、「世界最年長のプログラマー」と、海外でも注目されるようになった。

若宮 日本の新聞社の記事を、CNNの人が見て、ニュースサイトで取り上げてくれたんです。

茂木 僕はその時のエピソードが大好きで、学生や学校関係者に「日本の今後の教育への、素晴らしいヒントがある」と話しているんです。CNNからのメールには、「今日のニュースに間に合わせたいから、2時間以内に返事をくれ」とあったんですよね。もちろんすべて英語で。

若宮 ええ、だけど私たちの世代は英語が敵国語だった時期がありますでしょう。苦手なんですよねえ。

茂木 今までの日本人だったら、「正しい英語でないと恥ずかしい。どうしよう」と悩んでいるうちに、2時間過ぎていたでしょう。でも若宮さんは、「グーグル翻訳」を使った。これはパソコンやスマホにコピー&ペーストをすれば翻訳してくれるアプリです。それですぐに相手の質問を日本語にし、日本語で書いた返事をまた英語にして、締め切りに間に合わせた。

若宮 機械翻訳だから多少おかしなところもあるでしょうけど、ネイティブの方なら、こちらの言いたいことは推測してくれるだろうと思って。

茂木 英語なんてそれでいいんですよ。大事なのは、海外から問い合わせが来た時、とっさにグーグル翻訳を使って返事を書いちゃう行動力。そして発想の柔軟さ。

若宮 子どもの時から好奇心旺盛というか、面白そうと思ったらすぐやってみたくなるのです。