2日後。トイレから出てきた父が、「25メートル」とつぶやいた。なぜ突然、プールの話? と思ったが、どうやら先日買った、トイレットペーパーの全長のことらしい。日頃、100円高く購入しているものより、特売品のほうが10メートル短いことに、父が気づいたのだ。一家離散(?)をしてまで手に入れたというのに、母はまさかそれが、普段買っているものより短いとは思いもしなかったらしい。

後日、夕食の席で「一家族1点もの」への対策を話し合うことに。父が「ホイッスルを使おう」と言い出す。「それでどうするの?」と母と私が尋ねる。「『ピィ』で『一家族1点』、『ピィピィ』で『散らばれ』の合図。母さんが吹く」と父が答えると、「それじゃあうるさいわよ」と母。

「トランシーバー」と、兄が会話に加わる。「それなら、特売品以外のエリアについても連絡しあえるわね」と母が笑う。「こちらデリカコーナー、半額のシール開始、どうぞ」とでも伝えろということか。

「携帯があるじゃん」と私が言うと、「それじゃあつまらないわよ」と母は反論する。「なら糸電話は?」と提案すると、「面白い!」と父が笑った。

これが幼少の頃より今も続く、わが家の日常だ。

 

倹約家の母が隠していたもの……

こんなこともあった。

「あら、ボタンがとれてる。香里、香里」。母が私を呼んだ。「押入れにある裁縫箱を持ってきてちょうだい。今いいところなの」。洗濯物をたたみながらテレビを観ていた母が、私にそう指示する。

裁縫箱は、押入れの一番手前に置いてあった。私が物心ついた頃から、母が愛用してきたその箱を目にするのは、ずいぶんと久しぶりのことだ。懐かしさを覚えながら開けると、某菓子メーカーのアーモンドチョコの箱が出てきた。(なんでこんなところにチョコが? しかもアーモンドの……!)。日頃、板チョコしか食べることが許されていない私は、頭が真っ白になった。

板チョコは1枚100円。アーモンドチョコは1箱200円する。倹約家の母が家計を管理するわが家では、アーモンドチョコは禁止されているのだ。どうやら母は、自分だけこっそり“ぜいたく”をしようと企んで、そのことを忘れてしまったのだろう。

私はそっと裁縫箱の蓋を閉め、見なかったことにした。そして、何も言わずに母に裁縫箱を渡したのだった。ほんとにもう、お母さんたら。どことなくおかしく、今も忘れられない。


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