イラスト:YAB
女手一つで育ててくれた母親。その母が脳梗塞で倒れ、私は仕事をやめて介護に専念することに。ところが、気持ちとはうらはらに衝突してしまい──(「読者ノンフィクション傑作選」より)

抑えきれない感情が湧き上がり

介護はある日突然、火の粉のように降りかかってくる。1997年、私が33歳の時、母が脳梗塞で倒れた。当時、私は76歳の母と二人暮らしをしていたが、今考えると、私はあらゆる面で母に庇護されていたのだ。それがある日突然母に倒れられ、急遽、庇護する側に立たされた。

何の心構えもない状態で、いきなり「さあ、今から親になりなさい」と言われたようなものだ。出産には十月十日の準備期間があるが、その期間もないまま突然に……。

当初母は寝たきりの状態だったが、一所懸命にリハビリをして、杖を使って歩けるまでに回復。左半身に麻痺が残ったものの、2ヵ月あまりの入院を経て退院し、家に帰ることができた。

さあ、これからが“世話娘”の出番だ。けれど、私は味噌汁さえ作れない。家のことはすべて母がやってくれていたからだ。それまでの生活とは180度変わってしまった現実を受け止めきれず、ストレスは溜まる一方。職場でも、母のことが気になって集中できず、ミスが多くなる。初めの数ヵ月はフレックスタイム勤務を認めてもらっていたが、「いずれは完全復帰を」と言われ、実現できそうにないので離職した。

自分で納得して辞めたと思っていたのだが、ふとしたことから無理をしていることに気づく。この頃、母は趣味の水墨画を再開していた。その母の姿を見て、抑えきれない感情が湧き上がってきたのだ。「私はやりがいを感じていた仕事を諦めたのに、どうして母は好きなことをしているのか」。

私の人生は、母によって変えられてしまった。悶々とした気持ちはおさまらず、それからは何かにつけ母に向かって爆発するように。相談できる家族がいたら、それだけでどんなに救いになったことだろう。