イラスト:クボ桂汰
同僚や上司にはさまざまなタイプの人間がいます。組織ゆえ、摩擦が起こることもしばしば。時には予想を超えた行動をする人もいるようで─(「読者体験手記」より)

「僕にもおにぎりにぎってください」

つい最近まで勤めていたドラッグストアでのことです。その店で働く前は、家のすぐ近くの小さな企業で、経理をしていました。しかし会社が移転することになったため、悩んだ末に、思い切って辞めることにしたのです。

働いていた期間が長かった私は、辞めてから何をしていいかわからず、家で時間を持て余す日々。そのうちにむくむくと働きたい気持ちが芽生え、再就職を願うようになりました。ちょうどそのとき、近くのドラッグストアで求人の貼り紙を見たのです。

面接官は店長1人。40歳前後でメガネをかけ、プロゴルファーの丸山茂樹さんに似た、小柄な人でした。少しぎらついた目が怖かったというのが第一印象です。その後2、3日して私の採用が決まりました。職場に行ってみると、同僚は年の近い人が多く、とてもほっとしたのを覚えています。

半年ぐらい経つと、パート仲間とも打ち解けるようになりました。あるとき、ビールのケースを出していたら、店長が寄ってきて「僕がやるから、山田さんはお菓子を出してください」と、ひょいとケースを持ち上げ、私の代わりに積み上げてくれたのです。腰の悪い私には重たい品物でしたし、「いいところあるじゃない」と、そのときは思いました。

それからというもの、なにかと店長が気にかけてくれるようになり、重いものは私の代わりに運び、少し咳をすれば「風邪ですか? つらかったら早退してもいいですよ」と、優しく対応してくれるように。

ある日、休憩室で手作りの弁当を食べていたときのこと。店長が私の弁当をのぞきこみ、「美味しそうなおにぎり! 山田さんの旦那さんがうらやましいな。僕にもにぎってくださいよ」と言ったのです。その瞬間、背中がゾクッとして、途中で弁当を食べるのをやめました。でも考えてみれば店長はバツイチ。一人暮らしだと聞き、「まあ、家庭の味に飢えてるのかな」と、考え直しました。

その後も、広い休憩室でわざわざ私の真横に座ってきたり、甘えた声で「山田さん! ズボンのボタンが取れてしまったのでつけてくれませんか」と言ってきたこともありました。

そんなことがあっても店長のことは特に気にせず、仕事をこなす毎日。でもあるときから店長の妙な視線を感じはじめたのです。ふりかえると店長と目が合ったり、気がつくと近くにいたり。ちょうど私は仕事に慣れはじめた頃で、勤務態度を見張られているのかもしれないという意識もありました。まさかこんなおばさんに恋愛感情をもつとも考えられないし……。