イラスト:マルー
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。今回のテーマは、ニョキニョキ伸びる「豆苗」にまつわるお話です。

豆苗を買った。

もちろん食べる目的である。しかし、持ち帰ってみたら、なんとなく植物の苗を買ってきたような気分になる。まっすぐに伸びた緑色の茎の下に丸々とした茶色い豆がゴロゴロ付帯しており、さらにその下には細く白い根が密に絡み合っている。まるで、すくすく育った息子と別れるに忍びなく、「母ちゃんもついていく!」と豆母親が叫ぶや、「わしも行くぞ」と白髭じいさんもよれよれとあとに続いてきたかのようだ。

「まあ、しゃあねえやなあ」

豆苗農家のおじさんが哀れに思い、豆苗三世代を一緒に袋に詰めて出荷した……と、そんな光景を頭に浮かべつつ、私は改めて思った。せっかく若々しい息子についてきたのに申し訳ないけれど、この豆母ちゃんと根っこじいさんを一緒に食べるわけにはいかないだろう。茹でたらけっこうおいしいか? 中華風にニンニクと一緒に炒めてみようか。袋から取り出して、しばし見つめてみるものの、いかんともしがたい雰囲気が漂う。

「母ちゃん、育ててくれてありがとう。じいちゃん、水を吸い上げてくれてありがとう」

豆苗息子の気持になりかわり、感謝の意を表明したのち包丁で、豆ゴロゴロ帯より二センチほど上をばっさり切り取って、親子別れの段と相成った。

そのとき、ふと思い出した。そういえばテレビで見たぞ。阿佐ヶ谷姉妹が豆苗育成にはまっているという。緑色の茎を食用として切り取ったあと、残る部分を少し大きめの容器に入れて水を張り、日の当たる場所に置いておくと、新たな芽が伸びてくるのだとか。豆苗育成の専門家に指導されながら、楽しそうに育てている様子が番組で流れていた。

「よし、私もやってみよう!」