そうこうしているうちに、くだんの豆苗鉢からニョキニョキと芽が伸びてきた。まるで刈り取られたことは記憶にないかのごとく、短い茎の横から出てくる出てくる、青い茎。観察するに、どうやら一日に三センチほどは伸びる勢いだ。

かつて、背の高い男の子に聞いた話を思い出す。中学生の頃、夜、寝ていると骨がキシキシと鳴るんだよ。本当に一夜にして背が伸びちゃうの。まさかと疑いつつ、そんな経験をしてみたいと憧れたものだが、私の人生に伸び盛りという時期は一度も訪れたことがない。

それはさておき、あまりの豆苗のすくすくぶりに感動し、思わずスマホで写真を撮る。誰に見せるあてもなく、用事のついでに弟に送信し、

「どうじゃ! 我が家の豆苗君!」

見せびらかすと、さっそく弟から返信が届き、週末に息子を連れて見に行きたいと言ってきた。甥は小学五年生である。少し前、母の葬儀で会ったとき、背比べをしたら私をかすかに超えていたことに愕然としたばかりである。

「こんにちはー」

まだ声変わりのしない声も高らかに、玄関を入ってきた甥と向き合うや、また少し背が伸びたように見える。丸かった顔が心なしか細長い。

「ねえねえ、佐和子おばさーん。豆苗、どこにあるのー」

話し方も騒ぎ方もまだ幼いが、身体のつくりはまさにこの夏、絶賛伸び盛り中とみた。豆苗みたいね。

ちなみに我が家の豆苗は、今、三度目の芽を伸ばしつつある。第一号はニンニクと炒め、第二号は細切り塩昆布とオリーブオイルと酢で和えていただいた。豆苗第三号は、どう調理しようかしらね。


〈本連載が1冊に。『老人初心者の覚悟』好評発売中〉

老人若葉マークの踏んだり蹴ったり……
だからなんだ!

65歳、「高齢者」の仲間入りをしてからの、身の回り、体調、容姿、心境の変化とは----。
多忙な毎日に、じわじわと、あるいは突如として現れる老いの自覚。ときに強気に、ときに弱気に、老化と格闘する日々を綴る。
いい女、ふだんブッ散らかしており』につづく、『婦人公論』人気連載エッセイの書籍化第2弾。