イラスト:マルー
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。今回のテーマは、「実家の後片付け」。母亡き後、荷物を片付けるために実家に向かった阿川さんですが、そこで見つけたものは……

母が亡くなって、いよいよ実家の後片づけをしなければならないときが訪れた。

私が中学三年生になる年に、父が横浜の新興住宅地に建てた木造二階家である。父と母、そして四人の子供たちがそれぞれの年代に暮らした蓄積は家の隅々に至るまで詰まっている。こののち家自体をどう処理するか、はたまた父の仕事関係の書籍類をどのように整理するかはさておいて、とりあえずきょうだい間では、自分たちが実家に残していった所有物について、可及的速やかに判断、行動しようとの申し合わせが母の葬儀後、なされていた。

「今度の週末、ちょっと片づけに行ってこようかと思ってるんだけど、姉ちゃんも行く?」

弟から誘われて、覚悟を決める。行けば大仕事になるのは目に見えている。だからこそ、しばらく思考から遠ざけていたのだが、どこかで踏ん切りをつけないと、いつまで経っても片づける気にならない。

実家に到着するまでの道々、頭の中で記憶を呼び戻す。私が実家に残していったものははたしてどれほどあるのだろう。だいたい二階の物置きにしまってあったはずである。若い頃に没頭した編物や織物関連の本、ひな人形、溜め込んだ年賀状、洋服やアクセサリーもあったかもしれない。30歳で家を出て一人暮らしをするとき、1DKの狭いアパートに私の持ち物のすべては入り切らない。

「いずれ取りにくるから残しておいて」

母にこっそり頼み込み、それっきり引き取ることもせずに放置していた。