「恋する母たち」の著者・柴門ふみさん(撮影:大河内禎)
2017年に還暦を迎え「漫画家としての原点に戻り、まっさらな気持ちで描きたい」と『恋する母たち』の連載を開始した柴門ふみさん。今年3年半に及んだ連載が完結し、ドラマもスタート。元祖「恋愛の教祖」が見聞きし、作品に昇華した女性たちの揺れる心とは?(構成=丸山あかね 撮影=大河内禎)

彼女たちの「恋をしたい欲望」

「母親たちの恋愛事情」をテーマに作品を描きたいという構想は、10年以上温めていたものでした。

40代の頃、私の周囲には専業主婦として子育てをする人や、共働きで子育てに奮闘中の人、離婚をしてシングルマザーになった人や、未婚のまま母になったという人など、さまざまなパターンの母親がいました。そして誰もが口をそろえて言っていたのです。「恋がしたいわ」と。

それに対して「そうよね」と理解を示す自分がいました。でも私自身が現役ママであるうちは書き始めることができなかった。ママ友たちの手前という以前に、思春期の子を持つママである彼女たちの「恋をしたい欲望」がどういう決着を迎えるのかわからず、それゆえ、どう描いていけばいいのかが見えていなかったのです。

ところが娘と息子が次々に巣立ち、ふと気づくと視界がクリアになっていました。40代で恋に迷ったママたちももう落ち着き、ある程度の結論も出て。とにかく「恋する母」というテーマの作品を通して自分は何を描きたいのか、そしてどんなメッセージを伝えたいのかが明確になっているのを感じたのです。

つまり『恋母』は歳を重ねた今だからこそ描くことのできた作品。漫画家として新たな課題を与えられたと確信できたことが、制作に対する意欲を大いにかき立ててくれました。