イラスト:飯田淳

 

私が社会に出て働き始めた頃、
日本はバブルまっただなかにいた。
「男女雇用機会均等法」のもと
がむしゃらに働いた同年代の女性たちは——

第2回 彼女はヘイセイガンネンズ

保険会社のダメOLとして過ごしていたある日、フリーライターのTさんから連絡があったところまで、前回書いた。いまから30年前のことである。

Tさんからの知らせは、カンタンなものだった。

〈その人は30代半ばの、すごい編集長である。その人が、新しい編集部員をさがしている。地味な文芸誌を大きく売り伸ばし、飛ぶ鳥を落とす勢いである。文芸だけでなく音楽も扱っているのでミルちゃんはきっと合うだろう、とにかく一度、会ってみたら……?〉

そのころ20代半ばだったTさんはもうたいへん忙しそうで、すでに売れっ子ライターだったかもしれない。なぜそう思ったかといえば、Tさんはグシャグシャに濡れた洗い髪の姿で私の前に現れて、「寝ていない」と言ったのだ。

ああ、出版業界の人というのは徹夜するんだな……とてもじゃないが私にかまっているヒマなどなさそうだ……。

決められた日時に私は一人で、会いに行った。

細長いビルの4階に編集部はあった。スチール棚で仕切られたフロアの狭い一角に10ほどの机の島があり、いちばん奥が 〈飛ぶ鳥を落とす勢い〉の、その人の居場所だった。
編集長は、明るくも暗くもなく、清潔な感じがした。

面接の質問はたったの2つ。好きな作家と好きなミュージシャン、を尋ねられたのでそれぞれ名前を挙げると彼は私のカオをじーっと見つめてひとこと、
「きみ、古いね」
と言った。

そしてただちにデスクの原稿用紙(200字詰めのペラ)を手もとに引き寄せ、そこに私の名前を大きく、力強く書いた。と同時に、紙を勢いよく引き千切り、その場で秘書らしき女性にひょいと手渡し、
「彼女の名刺を」(作っておくように)
と指示を出した。

ペラに書かれたその字の逞しさを、私は忘れることができない。

じつに大きな字であった。