するとなんとMINIがあった。買えない値段じゃなかった。外車は軽より値下がりするんだそうで、むしろ激安で、これなんかいいですよと薦められたアルト(軽)と走行距離は同じくらいなのに、それより安かった。

中古車にはどんな状態かをあらわす記号がある。アマゾンの古本の「可」や「良い」みたいなものだ。MINIの評価はAで、アルトはSSだった。あたしは悩んだ。

日本に帰る前はMINIに乗っていた。

正確にいえば、夫の車だった。

夫はイギリス人で、ロンドンっ子で、アメリカに移住するまでずっとMINIだったそうだ。最初の離婚の後、妻に引き取られた子どもたちが恋しくてロンドン中をあてもなくぐるぐると走りまわったときもMINIだったし、とうとう子どもを取り返し、連れて帰ったときもMINIだった。三人の子どもを乗せてヨーロッパ中を走りまわったのもMINIだった。縦も横も大きい男に幼児から思春期までの子どもが三人。よく入ったものだ。

あたしが夫に出会ったとき、彼はホンダのシビックに乗っていた。それから日産の大きなSUVやVolvoの四角いステーションワゴンに乗った。そのうちに老いて、車の乗り降りのときにうめくようになった。それであたしがトヨタのRAV4を買った。夫をトヨタやホンダやあらゆるディーラーに連れて行って、試してもらって、これなら乗り降りしやすいと彼が言うのを買ったのだった。

ところがその頃から、アメリカでMINIをよく見かけるようになった。夫はあからさまにほしがり、路上で見かけるたびに、昔はアレに乗っていた、アレが俺の車だとうるさくてしょうがなかった。そのうちガマンができなくなったらしい。絵が一枚売れたとき(夫は画家)、そのお金でMINIを買った。

普通の車に乗り込めないからRAV4を買ったのに、かがむどころか体を折りたたまなくちゃ乗れないような車で大丈夫なのかと思ったが、夫は平然と乗り降りし、文句も言わず、そして子どもたちもいなくなり、夫婦と犬で、MINIで間に合うようになっていた。