「ほかに本命の会社があったのだけど、A社にがっつり止められて。で、身動きがとれなくなった。70社くらいに資料請求していたんです、当時はハガキでね。A社のことはよく知らず……じつは会社の名前も知らなかったという(笑)。広告を出していなかった会社でした。広告にお金をかけるのであれば、そのぶんお客様に還元しましょう、というのが当時の会社の方針だったらしく、利益はすべてお客様に──保険の契約者に返す。まあかつては『相互会社』とか言ってましたからね、いい会社だな、ここだったらいいかな、地味だけど……最終的に、しょうがないかここで、と思ったんです」

そこから事務ひとすじ30年、現在51歳・独身の彼女、長身に紺のスーツとパールのネックレスがよく似合っている。プライドをもって仕事をしてきた、仕事に対する厳しい姿勢がにじみ出てしまっている──あの時代に自分と同じくがむしゃらに働いていた人にちがいない、と私は確信した。彼女は途中で会社を変わることなく、いまも同じA社にお勤めであるが、平成バブル時にスタートを切った「同志」と言えよう。

「私たちの代は〈ヘイセイガンネンズ〉と呼ばれて。いまだ社内に同期がけっこう残っているんですよ、上と下はいないのに。若い頃はよく同期会をやりましたがいまはもう……。私以外のガンネンズたちは、もっとバリバリ働いていると思いますけど、私はふつうに事務をしているだけ。とにかく、ずーっと会社にいる感じ。自分の会社ですか? 好きではない……生活の手段としか思ってない、会社になんの愛着もありません」

ええっ、そんな……。会社に愛着なく30年? ありえない。私なんて会社をやめるまで会社が大好きだったけど。ヘイセイガンネンズ同志なのに、ずいぶんちがう。いやいや、きっとほんとはナオさんだって〈会社ラブ〉なはず──。その点については、ここではいったん置いておく。

平成バブル期から、女子学生の就職について〈一般職〉と〈総合職〉、その2つが選択できるようになったこと、は第一回でもふれた。〈一般職〉は従来の、主に女性に託された事務系の仕事を指している。それに加えてこれからは、女性も男性と同じように働ける〈総合職〉を選ぶことができる、そういう「新しい時代」なんですよ〜!ということに、よのなかはなっていた。

私の場合は、〈一般職〉で損害保険会社にいったん就職したものの、飛ぶ鳥を落とす勢いの雑誌編集長(=ボス)との出会いがあり、転職をした。かたや同時代、同じく保険会社に、生命保険と損害保険だが金融機関に入社して、そのままずっと〈一般職〉でお勤めをつづけている、彼女──。

「もういや! 会社やめたい! というのはしょっちゅうですよ。いままでつづいてきたのがほんとうに奇蹟」