イラスト:飯田淳

 

「会社をやめたい。何度も考えたけど、やめなかった」。
そう口にする、大手生命保険会社勤務のナオさんの姿に、
やりきれない思いを感じる同世代の筆者。
自身の新人時代を振り返ってみると─

第5回 あこがれのスチュワーデス

ボスのもとで働きはじめてまもなく、私に海外出張の命が下った。

映画の取材で、カナダはカルガリーへ飛べという。平成バブル期の話である。

われらの社長がカナダで映画を撮る、なのでそれに同行し、あとで記事を書いてページにせよ、との命であった。雑誌は自社映画の宣伝媒体ともなる。

私の入った出版社の社長は映画監督でもあったのだ。社長は圧倒的な存在として我々の前を走っており、私が知った時にはすでに何本もの映画を撮って大ヒットさせ、原作は自社で出版しベストセラーに。その出版・映像化のビジネスモデルはメディアミックス革命として全国で旋風を巻き起こしていた。

映画は戦国武将の合戦を描いた大作。この作品への社長の意気込みはすさまじいもので、新入り末端部員の私にまでその念は伝わってきた。

カナダから帰国後も、私は映画の現場に何度も入って取材をし、インタビューや写真をとり、記事を書いてページを作った。現場へ出かけて書いてまた現場へ─を、たびたび繰り返したため、映画スタッフや俳優さんたちとも知り合うことができた。夜の撮影所で飲んで語り合ったことも。会社も立場もバラバラだったけれど、あの平成バブル期でなければできなかった仕事を、ともにした人たちである。

社長は神がかりの人で、撮影中に祈りで雪を降らせたりした。社長は天狗に会えるという話も聞いた。当時はへえ〜?と思ったけれど、もうフシギには思わない。なぜなら何が起きてもおかしくないと、いまの私には思える。会社をやめる気などさらさらなかった自分が会社をやめた。ある日とつぜん地球がグルンとひっくり返って、北極と南極が入れ替わっても私はおどろかない。そもそも私たちのそばに神々がいることを、日本人が忘れてしまっているのはたかだかここ100年くらいの話であることを思えば、すべてしぜんだと感じられる。