佐藤時啓《光─呼吸》 ピグメントプリント 2020

静かに問いかける美術作品が原美術館の最後を飾る

1979年、当時としては極めて珍しかった現代美術の専門ミュージアムとして開館した原美術館。以後41年にわたって、国内外のさまざまな現代美術を紹介してきた同館が、来年1 月11日をもって東京から群馬に拠点を移す。「光―呼吸 時をすくう5 人」展は、東京で開催される最後の展覧会である。

佐藤雅晴《東京尾行》12 チャンネル ビデオ、2015-2016

今井智己、城戸保、佐藤時啓(ときひろ)、佐藤雅晴、リー・キット(李傑)の5 人は、慌ただしい日常生活の中で、意識されぬまま過ぎ去る時や、見過ごされてしまいそうな光景を、丁寧にとりあげてきた美術家たちだ。いずれの表現も社会を省察し、観る者の心に静かに問いかけるような作品だが、もうすぐ誰も訪れることがなくなる美術館では、とくに「不在」や「人の気配」を感じさせる作品に心惹かれる。

たとえば、入館してまず聞こえてくるのは、ピアノの自動演奏による、ドビュッシーの「月の光」。昨年、45歳という若さで亡くなった佐藤雅晴《東京尾行》のインスタレーションで、私たちはこの甘くはかない曲を聴きながら、誰もいない部屋にひっそりと咲く花瓶の花など、実写とアニメが融合した不思議な映像作品を眺めるのだ。

また長時間露光により、ペンライトや鏡を持って歩いた軌跡をフィルムに定着させるシリーズ「光―呼吸」で知られる佐藤時啓は、本展のための新作を発表。閉館となる原美術館と、2021年より両館を集約し原美術館ARCとして活動するハラ ミュージアム アーク(群馬県渋川市)を、まばゆい光で満たす。1938年に竣工した美術館の瀟洒な建物とも、これでお別れ。ぜひ最後にその姿を目に焼き付け、心にとどめていただきたい。