絵:石黒亜矢子
詩人の伊藤比呂美さんが『婦人公論』で連載している「ショローの女」。夫が亡くなり、娘たちも独立、そうして伊藤さんは20年暮らしたアメリカから日本に戻ってきました。コロナ禍で、遠出ができず熊本の自宅で過ごしている伊藤さんのもとに、知り合いの女性からLINEが。「元気です、なんとかやってます、今うちは猫が五匹も生まれて大変です」。この文面を見た伊藤さんは──

猫を飼ったったったった。

前々回か前々々回、阿蘇の奥のひっそりとした水源のそばに住んでいるユカリさんのことを書いた。ユカリさんとLINEを交換したのに連絡してない、連絡してないことが後ろめたいという文を書いた。そしたら『婦人公論』はすごい。ユカリさんがそれをどこかで読んだのである。

たちどころにLINEが来た。「元気です、なんとかやっています、今うちは猫が五匹も生まれて大変です」と写真がついていた。

それで、一晩考えた。

猫のことは、なんとなく考えていたのだった。この間子猫を拾ったときに(もらい手があり、今はそこでかわいがられている)そう思いはじめたのかもしれない。

あの頃はまだ早稲田に通っていて猫なんてとんでもなかった。でも今はコロナで、オンラインで、あたしは家にいるから、猫だって犬だって飼える。ニコを引き取りにアメリカに帰れないだけだ。

クレイマーがあたしのベッドで一日中寝ている。カリフォルニアでは楽しげによく遊ぶ若犬だった。ここでは違う。つまらなそうに生きている。散歩はもちろんよろこんで行くし、散歩中は甘えてくるけど、家の中のクレイマーは「おかあさんはお仕事」と思い込んでいるらしく、かまおうとしてもすっと離れていく。それで、あたしは一人、クレイマーも一人。