イラスト:飯田淳

 

昨今のさまざまな政治案件を彷彿とさせる、
平成バブル期に起きた経済事件。
当時、国会議員の公設秘書だったシホさん(57)は、
寝る間もなく、議員とともに働いていた

第8回 ボスとソンタク

ボスを中心に、その世界はできていた。

私が気づいた頃にはすでにスター編集長で業界の有名人だったボスは、編集部員だけでなく、周囲の人びとを凄まじい勢いで引き寄せていた。

K書店は、私が社会に出て最初に入ったアメリカの保険会社とは、まったく違った。

民主主義の本場生まれのグローバル企業、ファミリー感あふれる職場にいた私は、環境の急激な変化に、目をまわしていた。

よのなかバブルがはじけていたが、ボスは多忙を極めていたと思う。本づくりのほかにも仕事がたくさんあったようで、あちこちの会議やら会食やら会合やらに引っ張りダコのボスは編集長の席にあまりいなかった。座っているときはじっとして、そういえば手紙を書いていることが多かった、といま思い出した。

ボスは無駄口を叩かない人だった。

たとえば、暑いとか寒いとか言わない。ピンポイントで仕事の話しか、しなかった。

したがって、私たちが呼ばれるときはぜったい何か大事な用なので、編集長の席から「おい」、と部員の島に向かって声が発せられると、そのたびに誰もがみな、ぎょっとしたものだった。

私たちは余計なことを言わないボスの真意をはかるべく、ボスの顔色をうかがっていた

ようはソンタク(忖度)していた。

想像力に欠ける行動を、ボスは嫌った。

編集部の先輩たちはつねに先回りして仕事をしていたし、それをできる人がすなわち「仕事のできる人」ということなのだが、だからといって仲間を売ったり、ウソをついたりはしない。叱られるときにはおおいに叱られ、謝るべきときには謝った。