こうして私は、出版社K書店の正社員になった。

ボスとロビンが私を社員にしてくれた日を、忘れることはない。

でもその日からまもなく私たちは――ボスもロビンも私も――K書店を去ることになる。その話はまたあとで。

シホさん(57)は、就職をしなかった。

けれど私と同じくあのバブル期に、やはり必死で働いていた。はじめは専業主婦として。

「ぼくと結婚したら勉強させてあげる」

弁護士に憧れていたシホさんは、旅先で出会った男性にそう口説かれて、はたちそこそこで家庭に入った。

しかし勉強どころではなかった。家事・育児に忙殺されるなか、姑のいじめや夫の浮気で精神を病んだ話は、すでにお伝えしている。今回は、そのつづき。

「バブルの頃、私はサラリーマンの妻でした。よのなか、みんな株で儲けているんだろうなーなんて思いながら、家事と育児に追われていたの。でも自立しなきゃと思うようになって……」

ビジネスを始めることになったのは、ぐうぜんだった。

「2人目が生まれたあと、具合が悪くなってしまって。目の周りにひどいクマができて真っ黒になっちゃった。黒皮症という病気だった。カバー力の強いファンデーションを塗って隠していたんだけど、がんばって化粧するから能面みたいな顔になっていた。見かねた友人が、かわいそうだって言って。ある化粧品を教えてくれたの」

それは漢方薬が原料の化粧品だった。一般市場には出回っていない。販売員から直接説明を聞いた人しか買えない。しかもその説明をできる人が限られているという、なんだかなぞめいた商品であった。

「最初はブツブツも出るし、アブラも出るし。だから説明が必要だったんですね。でもしばらくしたら皮がペロッとむけて、黒ずみがなくなっていた」

きれいになったシホさんのことは近所で評判になり、問い合わせが殺到。

「それを塗り出した頃は近所の人たちから『なにその顔! 化粧品、合ってないんじゃない?』とか言われるくらい、途中ひどいことになっていたんだけど、ほんとうに治ったのでみんな驚いたのよね。で、私にも売って! という人がぞくぞくと……」

シホさんは販売員の資格を取って、地域の注文をまとめることになった。

「まず商品そのものに力があった。水おしろいみたいなもので、飲んでもいい。ぜったい安全。だけどすぐに腐るから、仕入れと販売のルールは、とても厳しかったんです。あと当時流行っていた、いわゆる〈ネズミ講〉になっちゃいけないっていうのもあったりして。販売元がとてもきちんとしていたんですよね」