〈オッチャン〉は、有名な国会議員の政策秘書だった。その日を機に、シホさんはオッチャンの仕事、主に「国政選挙」を手伝うことになる。

「選挙っていう場は私を自由にしてくれた。お祭り騒ぎでしょ、選挙って。全国どこへでも連れて行ってくれたし、ものすごく楽しかった。ごはん三食付いて、お金もたくさんくれる。私のような世間知らずにすれば、国会議員なんて知りもしないから、かえって堂々と……議員のマイクを奪って私が喋っちゃうとか、やりたい放題

楽しかった選挙活動期間が終わって、抜け殻になっていたシホさんに、オッチャンが言う。

「秘書にならないか? お前にこの仕事、向いてるよ」

議員にも気に入られ、政策秘書の一員となったが、事務所内でいじめに遭い、入って半年で円形脱毛症に。

「あのとき私をいじめた人は、いまも国会にいる。本当に怖かった。血を吐いたよ。こんなブラックな仕事ないからさ。それでもね、政策秘書っていうといきなり年収800万もらえるの。しがみついたよねー、仕事に。

すでに40歳になっていて。それなのに子どものバスの定期代、1万5000円がなかった。クレジットカードで借りて、息子に渡したのをおぼえてる。

たったの1万5000円よ、なかったの。
それが入れ墨のように忘れられなくて。
それに、リベンジ。司法試験は落ちまくったけど、立法府でしょ? 私にとって、仕事の舞台が立法府というのはリベンジだったの」

シホさんはいじめに耐え、「ボス」に導かれたその仕事を続ける。

「選挙を一生懸命にやって、でも負けて。秘書浪人したときは、ほんとうに辛かったな……。
選挙の後始末が終わった頃には、新しい議員秘書のイスはもう埋まっていたからね。
『政策秘書いりませんか?』って、議員会館の部屋を一軒一軒アタマ下げてまわった。……みじめだった。でも子どもたちにお金ないなんて言えないし。

もうこの仕事はやらない。そう思ったよ。血を吐くまでやったんだから。
でも、私はこれで食べていくしかない」

そこからおよそ10年かけて、シホさんは政界に出入りしながら勉強し、自分の会社を立ち上げた。

必死だった。その積み重ねが、のちの自分を救ってくれる。

「いまでは選挙を見ていて、この人は落ちるとか受かるとか、すぐにわかっちゃう。こういうのって霊感? と前は思っていたけど、違う。これって単なる経験値の蓄積なのね」

シホさんは日々仕事をするなかで、「この人とは付き合っちゃダメ!」と、自分の第六感がNGサインを出してくることが、よくあるという。

「魂を売り払った人って、すぐにわかるの。その人の目の奥と口のなかが真っ黒に見えるから。私にはどうしても見えちゃう。そう、真っ黒い筒みたいに」
つづく