イラスト:マルー
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。十五年ぶりに再会したお坊様から、初対面のときの阿川さんについて言われた言葉に驚愕!赤面!混乱!! さてそれはいったいーー

十五年前、ラジオ番組の収録でお会いした偉いお坊様に先日、再会した。もう一度お会いしたいと長年願いつつも果たすことができぬままだったので、格別の喜びがあった。

かつてそのお坊様が小さなラジオスタジオで語ってくださった言葉を私はその後ずっと大切にしてきた。

野花は決して嫉妬しない。隣にどれほど立派な花が咲いていて、人々の賞賛を一身に浴びていようとも、自らは小さな目立たぬ花を咲かせていようとも、文句を言わず僻まず妬まず、与えられた命を淡々とまっとうし、そして静かに朽ちていく。

自分だけが損をしているとか、あの人のほうがたくさん褒められているとか、どうせ私には才能がないとか、小さな嫉妬心が芽生えたときなどに、ふとお坊様の言葉を思い出す。そうだそうだ、淡々としていなくてはいかんぞ。妬んだあとで反省するが、妬む癖はなかなか直らない。だから野花の話はいつまでも心に残り続けている。

「あのときの野花のお話、忘れられません」

再会してインタビューを開始するや、私はまるで恩師に会って昔の教えを反芻するがごとくに報告すると、お坊様はニコニコ笑って頷かれた。

「そうでしたね。そんな話をしましたね」

ニコニコ顔のまま、お坊様が語り出した。