絵:石黒亜矢子
詩人の伊藤比呂美さんが『婦人公論』で連載している「ショローの女」。夫が亡くなり、娘たちも独立、そうして伊藤さんは20年暮らしたアメリカから日本に戻ってきました。今伊藤さんが暮らすのは、築30年のコーポラティブ住宅。土地を買うところから話し合いをし、一緒に住まいを作り、生活を営んできた住民たちは、みな家とともに年齢を重ねて――

こないだ夕方の散歩で歩き始めたとき、ふと携帯で時間を確認して、ショートメッセージが入ってるのに気がついた。

今はいろんな手段で人と連絡を取ってるからもうごちゃごちゃ。LINEは学生たちと日本の友人たち、メールは仕事関係と学生たちの課題提出用、WhatsAppは娘たちとアメリカの友人だ。そしてメッセージで連絡してくるのは、今は枝元と、あたしの住む集合住宅の住人Eさんだけなのだった。

Eさんは一人暮らしの八十代、この集合住宅の長老みたいな存在で、あたしも何かにつけ頼りにしていて、留守にするときには植物の世話を頼み、Eさんからは遠くの店へ買い物を頼まれ、お礼に煮物などいただき......というつきあいをしていた。もらい物があると母に持っていったみたいにEさんちに届けるから、クレイマーも「Eさんちにいくよ」と言うとついてくる。その結果Eさんに「あんた(クレイマーのこと)は金魚のふんみたいやねー」などと言われている。

メッセージには、同じく住人のMさんが亡くなったと書いてあった。入院しているのは知っていたし、Eさんと並ぶ長老だったから気にかかってもいたが、まさか亡くなるとは思ってなかった。それでEさんに電話をしたがつながらない。お通夜は六時からで、そのときすでに六時だったので、Eさんもお通夜の斎場にいるものと思われた。