イラスト:飯田淳

 

あの頃、ボスが立ち上げた会社は
〈私の会社〉のような存在だった。しかし会社をやめたあと、
〈私の会社〉を持ち、採算性を考慮して
働くことがいかに大変なことかを思い知る

第16回 続・新会社、はじまる

やがて社員が一人増え、二人増え、部屋が少し手狭になった。

同じワンフロアだったが別のビルに引っ越しをすると、パーテーションで仕切られた小さな会議室ができた。

毎週月曜日の朝、ボスは10名ほどの社員を集めて、そこで会議をした。

編集者は企画を出し、営業部員は注文の数や売れ行きなどの報告をする。ボスの厳しい指導を間近で受けるメンバーは、前日の新聞全紙に目を通し(日曜日に書評が掲載される)、毎回緊張して、会議にのぞんだ。

前社で「雑誌編集者」だった私は、新会社に移って「書籍編集者」になった。

同じ「編集者」でも、仕事の仕方は違う。

雑誌編集者のときは(私が新人だったせいもあるけれど)編集長に守られて、どんどん動いて、いわば〈自分のやりたいこと〉を誌面化していた。

しかし書籍編集者になったらば、自分が一冊ごとの編集長であり、その作品にかかる経費の計算から、本が出来上がったあとの宣伝・プロモーション活動にまで携わる。つまり〈商売〉を強く意識してやらねばならない。

売れると見込んだ作家や企画に狙いを定め、確実に作品をつかみ、かたちにする。そうした〈狩り〉のごとき仕事であることを、私はわかっていなかった。自分の作る本がどれだけの儲けを出して、どれだけ会社に貢献できるのか? それを考えることに私は初めなじめず、ボスをやや落胆させた。

しかしながら退路を断って入った会社である。やめるわけにはいかなかった。みんなそうして集まってきた仲間であった。その仲間たちに、何度も助けられ、救われた。

調子の悪いときはじっと耐えて、それでもあきらめず黙って続けるにかぎる。この時点では、自分が大ベストセラーとなる担当作に出会うことなど知る由もないが、私はボス社の社員となった自分を幸せに感じていた。生まれたての会社が、大切だった。