その後ある会社の顧問なるものを引き受けた。若手社員のさまざまな相談を受けたり、人を紹介したりする。

もう二度と会社には入るまい、私は心に決めたボスに長年つかえ、じゅうぶんやって終わった人間だ。いまさらどうしてほかの会社のために働くことができよう、などと思っていたのだが、その話をお受けしたのは、私へ頼んでくれた方の「お願い」が、あまりに一生懸命だったからである。

私はあのときほど真剣に、人から何かを頼まれたことがなかった。

もしあの「お願い」がプロポーズだったら私は結婚していたかもしれない――ほどだったので、断ることができなかった。まもなくその会社の事情がかわり、私の契約は打ち切りとなってしまったのだが、終わって私はまたホッとした。なぜならどれもこれも、しょせん〈私の会社〉ではない、〈ほかの会社〉のマターであったからだ。

あれ? ではボス社は〈私の会社〉だったの? 本来そうではないはずなのに、いま思えばふしぎなことに、あの頃の私にとってボス社は〈ほかの会社〉ではなかったのである……まあそれはともかく、自分の会社員時代の経験やノウハウで、若い人に活かしてもらえるものがあるのなら嬉しいし、まとまった収入はじつにありがたかった。それに仲間がいるっていうのはやっぱりいいものだった。

でも、これを最後に、私は〈一人になる〉ことを決意した。

チームワーク時代の終焉。

バンドプレイはもうやらない。

オーケストラでいうなら、ソリストだ。

ソリストならば最小限の荷物を持って、呼ばれた場所へ出かけるだけでいいのである。
仕事を失い、ああまたひとつの時代が終わるのか……と胸がつぶれそうになったとしても、あとからよいことだったと思える日がきっとくる。そういう現場を積み重ねる――旅するソリスト。そうだ、私はソリストをめざす。一人になって努力をしよう、たとえ一生かかっても。

〈バンドプレイヤーからソリストへの転向〉。それを思いついたら、ぐんと気がラクになったが、私は学ばねばならなかった。孤独と本気で向き合わないかぎり、そのステージはいつまでもやってこないのだということを。(つづく