都市銀行を取引銀行とした〈法人〉となること。当時はまだ少なかったクラブの〈法人化〉へ向け、アイさんは奔走した。

「会社をつくるって、こんなにたいへんなのかと……都市銀行だけで何軒もまわりました。銀行で働いている友達みんなに連絡したけど、紹介でもダメ。『女の社長には貸せないよ』と」

あきらかな女性経営者への差別――にくじけそうになる。が、お金を貸すにも取引するにも人を見て決めていた時代、とある縁から会えた銀行の支店長のおかげで、なんとか口座を開くことができた。晴れてオーナーママとして初めてのクラブをオープンさせ、29歳でアイさんは経営者となったのだが。

「2軒目を出したときです。会社をつくるときより、もっとたいへんな目にあったのは。
1軒目を出した後、ちょうど良い物件が出て、これは2軒目に挑戦するしかない! と思ってしまったんですね」

アイさんの意気込みがあきらかになると、お客さんたちの態度に変化が見られた。

それまで彼女を取り巻いていた男の人たちが、引いていく。

「2軒もお店持つなんて……ということなんです、生意気だって。男の人が気に障るライン――かわいくなくなるラインがある」

いちホステスとしてのアイさんは応援しても、経営者として事業を拡大するアイさんは支持しない、ということか。〈女はここまで〉のラインとは?

「ビジネスは男の土俵、同じ土俵に上がってきた女を応援することはできないって。それで、昔からのお客さまが離れていきました。男性がバックに……たとえば大きな会社が、会社の一部としてクラブを経営していて、そこにママで入るとか、そういう方法もあったのか~、とあとになって思いましたが、それまで〈雇われママ〉をやっていて、そこから独立したい一心だったから。

かわいくなくなったら、突き抜けるしかない。

たいへんだったけれど、それでもがんばってやっていくうち、いつしか経営者となった私がお客さまにとって当たり前、になりました。いったんは離れたけど、10年経って戻ってきてくれたお客さまもいます」
つづく